これ、長野に限らず、また昨日今日の話でもなく、以前から言われてたことですが、メディアの表面に取り上げられる程度に「問題」として認識されるような条件が整ってきた、ということかも知れません。ミもフタもなく言えば、社会の流動化を考えなしに押し進めた結果、必然的に起こる現象、かと。JA主導で「道の駅」とか共同販売所みたいなところでの販売が増えているのも、ひとつにはこういう販売方法が成り立たなくなったから、なんでしょうね。
昨今の中古品専門店などで、ワゴンセール対象になっている品物など、明らかに「盗られても仕方ない」という扱いですよね。ぬいぐるみとか。あるいは、古書店でも店頭ワゴンの100円均一はそういうものでしたし。
でもこれ、野菜だから成り立ってきたわけで、農協に出荷できないモノをこういうルートでさばければ儲けもの、程度で、ゆるく言えば「おすそわけ」的な認識で始まったのが多いはずです。日もちのしない果物や水産物などは、ロードサイドのワゴン販売の業者などに流してしまう、とか、そういう「ジャンク」商売の社会史みたいなことも背景に。バナナのたたき売りだって、冷蔵&熟成技術の進展で消滅したわけですし。
むしろ、「農村」「イナカ」のコミュニティの相互監視的な視線のあり方自体、機能しなくなっているらしいことの方が、気になったりします。誰もいなくても、「よそもの」は必ず認知され、情報として出回るような古典的、教科書的な「ムラ」的コミュニティって、実は想像以上に後退してます。エアコンとアルミサッシの普及、クルマ移動の日常化……などなど、そういう「日常」の変貌を振り返るような仕事自体も、すでにニッポンの人文系ガクモンからは衰弱してしまってたりします。
施餓鬼の感覚とか、あるいはかつての「捨て子」の習俗とか、自分の生活の管轄から外に放り出す=「捨てる」ということが、日本人にとっては「世間にゆだねる」的な部分が大きかったはずで、無人「販売」と言いつつ、本来それは商取引が前面に出たものでもなく、道端に「捨てる」ことで誰かに拾ってもらう、という感覚が先だったような。
ぬいぐるみの捨てられ方、というのでゼミ論を書いた学生が少し前、いたんですが、それと同じで、「捨てる」という行為自体にまつわっている何というか、キモチの背景みたいなものがまつわっているように感じます。
ペットボトルに水を詰めて家の周囲に並べて「猫よけ」に、というのも一時期流行りましたが、あれもペットボトルという「新たに増殖し始めていた新しいモノ」の始末に困って、「猫よけ」という意味づけをして「捨てる」ことをやっていたんだ、と解釈していました。それと同じで、「販売」という意味をつけて「捨てる」をやっていたのでは、と。
無人販売が長野県で始まった、という説も初めて聞きましたが、本当だとしたら、それにも何か地域の習俗との関わりがありそうな気がします。
農家が農産物を並べる無人販売所で代金を支払わずに商品を持ち去るケースが後を絶たない。被害が少額で対策も難しいため泣き寝入りする農家が多かったが、被害の増加で販売所の運営は難しくなっている。業を煮やした農家が警察に連絡し、警察官が張り込んで“現行犯注意”するケースも相次いでいる。
下伊那郡高森町の無人販売所では7月、農家の届け出を受けて飯田署員が張り込み。数百円の代金を支払わずに農産物を持ち去った男を見つけ、口頭で注意した。松本市清水でも9月、販売所にあった料金箱から売上金170円を持ち逃げした20代の男を張り込み中の松本署員が発見。現金をもとに戻させた。
また、岡谷市川岸では6月に60代の男が200円分のトマトを、9月には70代の男が250円分のトマトとキュウリを持ち去った。ともに張り込んでいた岡谷署員が厳重注意。70代の男は「金を払うのが惜しかった」と話したという。
県内の無人販売所の「発祥地」と言われる飯田下伊那地方。今月4日、下伊那郡下条村陽皐(ひさわ)の舘林智恵子さん(75)が販売所の料金箱を開けると、中には百円玉が二つ。豆類のシモササゲと春菊計9袋(900円分)を並べたが、700円分は金を払わずに持ち去ったらしい。「いつものことだで、しょうがないんな」
1995年ごろ、仲間と国道151号沿いに販売小屋を設けたが、相次ぐ「盗難」にほかの5人はやめていった。舘林さんは約15年間で「約50万円は盗まれた」という。
飯田市中央通りで進学塾を営む佐藤孝史さん(54)は2008年から同郡喬木村の実家近くで栽培したレタスやハクサイなどを塾の軒下に並べている。毎日2千円ほどの商品を置くが、売上金はいつも1割ほど足りず、料金箱ごと盗まれたこともある。料金箱には「見つけ次第、警察に通報します」と警告文も書いているが、「半ばあきらめている」とも。
みなみ信州農協(飯田市)の担当者は「管内にある販売所の数は把握していないが、盗難の増加に伴って減ってきている」と話す。
http://www.shinmai.co.jp/news/20101117/KT101116FTI090001000022.htm