ある邂逅

 久し振りに顔を出した場所で、久し振りの顔に思いがけず、ばったり行き会った。

 世間並みの無沙汰の挨拶、当たりさわらぬやりとりの中、ネットオークションで競走馬のやりとりがされるようになっていることについての話題になった。

 「あれ、どうなん?」

 微妙なニュアンスも含みながら、なにげなく尋ねた。

 「いやぁ、盛り上がってますよ、どんどん売れてますよねぇ」

 彼は屈託ない。表情からも、ほぼ全面的に肯定しているらしいのがわかる。

 「新しい人たちが入りやすくなってますし、ああいうので裾野が広がってゆくのは、僕らにとっても助かりますよねぇ」

 大手牧場、それもクラブ馬主もやっているオーナー・ブリーダーのエージェント。競馬場に入った馬たちの状態や使い方、出し入れなどについてまで采配する立場で、それらの情報を「出資」してくれている多くのクラブ馬主たちに伝えてゆくことから、厩舎の調教師や騎手などの間の調整その他、重要な位置にある。元は確か銀行員か何か、いずれ素っ堅気の仕事に就いていたはずだが、90年代の競馬ブームの折りに転職してきたと記憶する。その頃の初々しい、素朴な競馬ファンのたたずまいは、この道ざっと20年でほぼなくなり、面差しなどはそう変わらぬまでも、大手牧場という後ろ楯を持った立場の強さやその上に築いてきたであろうキャリアの蓄積からだろう、堂々たる押しの強さやふてぶてしさも備わっていた。

 「馬主になりたい、って若い世代も増えてますよぉ。みんな勉強していて理解が早くて、そういう意味じゃ助かります」

 世代交替、はどの世間でも世の常、習い性ではある。けれども、その中にあって日々生きている人がたにとっては、また常にそれなりの葛藤や不条理、解消しきれない不信感なども互いに宿ってゆくもので、殊に「時代の流れ」とだけ片づけてそれ以上見ない、考えないようにする処方箋も、かつてほどは万能薬になってもくれない。そうと意識しているわけでもないのかも知れないが、彼もまた、自分たちの世代の〈リアル〉がようやく自前で「未来」を見通すことができるようになってきた、そんな愉びにあふれて充実しているように見えた。

 「なんか年上の人たちとつきあいにくくなってるんですよねぇ」

 別れ際、何気なくもらしたそのひとことが、屈託ない笑顔と共にこちらのココロに焼きつけられた。