現代民話、ひとつ

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 むかし友達のドカタの現場監督が中国人を3人臨時で雇っていてな、まだ景気の良かった頃なので旧い中古住宅に住まわせて。そんでその近くに公園があって、そこで彼らは実に巧みに鳩を捕まえては首を落としては近所の木に吊るし血を抜いて食っていたのだが、本筋はそんな話でなくてな。


 そんなワイルドな彼らであったが、ある日困った顔をして相談に来た「カントクーこの家にはオバケが出るよ」って。当時は中国人出稼ぎの質は悪くて当たり前だったもんだから、監督の彼もコイツらは何かゴネ得を狙ってやがるなと、「そんなわけあるかい、大の男が3人も居て情けない」と突っぱねた。


 それでもしつこく3人が3人とも「オバケが出る」「鬼が来る」(と漢字で書いてきたりもしたそうだ)「夜寝ていると女の人と子供がでてきて足首を引っ張る」「酷い時は引きずられて壁に張り付いてしまう」って。もちろん信用はしなかったものの、あまりに懇願が激しいので仕方なく会社の寮に移らせた。


 そんで、そこを引き払わせる時に立ち会った不動産屋に「困っちゃいますよー中国人がオバケだ鬼だってゴネて、いや女の人と子供の幽霊らしいんですがね」って愚痴ったら、不動産屋たちまち困った顔をして、実はあそこガス漏れで母子が死んでる事故物件なんですよ、ってそっと教えてくれたって話。


 まあ、ウソか本当かはともかく過去話なんか知り得ない中国人の見たという幽霊と事故の人数と容姿が一致したというのが興味深い。


 そんでさ、そんな話を聞いちゃ行かずにはおれんわけで監督とわしともう一人の三人で見物に行ったのよ。もちろん怖いから昼間に。わしは泊まってみようせって提案したのだが却下された。


 まあ結論からいうと何も出なかったわけだが、引きずられて張り付いちゃうと言われた壁に妙にリアルな脂っぽい人型のシミが大きいのと小さいの2つ浮き出ていたのが印象深い。(終)

*1:Twitterもまた、正しく「語り」の媒体なのだと思う。こういう秀逸な事例を目の当たりにすると、なおのこと。