TSUTAYA的なるもの、の現場・メモ

*1
*2
*3

 代官山の店舗はその後全国に展開される「蔦屋書店」ブランドの旗艦店であって、あの規模でいわゆる「セレクト書店」と呼ばれる分野(話はそれるがセレクトしていない本屋はないはずなのでこの呼び方には大変違和感がある)に参入したという意味で実験的な試みだった。


 オープン時のスタッフは他の書店での経験がある方は比較的多かった。また、ベテランの編集者・ライターだった方で書店員に転向した方や、その他、様々な経験を持って棚づくりを行っている方も少なからずいた。「コンシェルジュ」と呼ばれる方々。博識でした。同僚として僕も色々学ばせていただいた。


 現場の人間が「本への愛がない」わけなんてなく、当時店頭に立っていた方々の多くは真っ当な仕事をしていたと思います。そうした方々は今もいろんな場所で活躍してます。


 蔦屋が一貫して掲げているのは「ライフスタイル提案」です。これが何かというと「本」ではなく「本のある生活」を提案するというもの。個人的な解釈もありますが、まあ遠くないと思います。RTで批判されているようなことですね。「スタイリッシュな空間でコーヒーを片手に本を読む」みたいなやつ。


 今じゃ他のチェーンや個人店でも増えてますが、当時は併設しているお店で買ったドリンクを持って入れる書店なんてそうなかったですからね。それだけでもまあ色々言われるわけです。「汚れたらどうすんだ」とか「本を大事にしていない」とかね。


 まあそういう見方があるのなんて折込済だし、働いているスタッフの中にもそういう所に批判的な人はいましたよ。だって、これ現場の人間からしたら良いことないんですよ。立ち(座り)読みの時間もドリンク溢した汚損本も増えるんですから。それでいて、売り上げに繋がるのかはよくわからないという。


 汚損本は書店が買い取るので不利益になるわけですよ。「たかが一冊」と思われるかも知れませんが書籍の掛け率知ってる人から青ざめるようなシステムだと思います。一冊の汚損本の回収のために何冊売れば良いのか、まあ興味ある方は調べてみてください。万引きで本屋が潰れる理由がわかると思います。


 そういう不利益と引き換えにしても実現したかったことがあるということですよね。それが「ライフスタイル提案」と百年の方がツイートしていた「街に開く」です。実際どれだけ達成できているのかはさておき、目指す方向性自体は僕はそう批判されるものではないと今でも思います。


 「本の品揃えで勝負しろよ」みたいな本好きの方々の意見はわかるんですが、正直15年以上前の議論だと思いますね。本だけでは難しい構造が業界にあって(それはそれで改善されるべきなのは言うまでもない)店舗を存続させるために雑貨やドリンク、イベントに力を入れている書店は今はいくらでもあります。


 「本は飾りじゃない」もよく言われました。でも店内の本は全部売り物だし、ちゃんとそのつもりで選書もしてました。それに好きな本を聞かれた時にイメージ気にして答える人って普通にいますよね。それと同じで、格好から入るってことの全てを否定したくないんですよ。間口を狭めるんで。


 ちなみにイメージと質は両立させることが出来ます。一時期の代官山蔦屋は他の書店と比較しても恥ずかしくない仕事をしていたと思います。日本の他の店では買えないリトルプレスや洋雑誌を手にとって選ぶことができました。リスクをとって店が独自に仕入れていたからです。


 書店の選書がどうだと評するような振る舞いは下品だというのが書店員同士の認識としてはあったと思いますが、まあ外の方からは色々言われますよね。全ジャンルに精通している人はいなくて、得意分野と不得意な分野はあるんですよ。どの店も。それは人が選んでるからですね。


 なので人が変われば店はガラッと変わる。人材流出は書店の大事な部分を大きく棄損します。CCCはもっと改善を待遇したり現場の人を大事にするべきですが、前述したように本屋の利益構造では難しいところもあるのかなとは思います。まあそれは業界全体の課題でしょう。


 話が逸れました。そして「街に開く」の部分。ここはある程度実現できてると思います。行ったことのある人はわかると思いますが、エントランスがいくつもあって、死角も山ほどあって万引きし放題みたいな構造なんですよね。しかもコーヒー持ってふらっと入れる。バカなの? というのが真っ当な感想です


 多分バカなんですよ。でも、だからこそオープンな状態が保てている。ドリンク購入を必須にするわけでも、入場料をとるわけでもなく「ふらっと入ってふらっと出れる書店withコーヒー」を実現した。僕はこの点はポジティブに捉えてます。


 オープン直後と深夜は好きな勤務時間帯でした。早朝に近所の方が散歩中に訪れては立ち読みをし、おじいちゃんが店内のベンチでうとうとしている。深夜24時を過ぎた頃にはかつて六本木ABCに訪れていたであろう人々が真剣に本を選んでる。投資対効果低い時間だけどこの時間に開けている意味は大きい。


 深夜、酔っ払い客が来るんですよ。ドリンクこぼすぐらいならマシで吐瀉物撒き散らす人もいました。「本屋の仕事じゃねえ」と思いながら清掃してましたが。これは極端にしても「困る客」は一定数いるんですよね。


 そうした方をなるべく排除せず、本が汚れないよう、店員が危険に晒されないようにスクリーニングかける工夫は色々やってました。この辺のバランスは店舗で働く方はみな工夫されていることでしょう。ただあの規模で、街の真ん中にある書店として、間口を狭めない方針は評価できます。中は大変でしたが。


 だからまあ、色々意見はあると思いますが、中の人はそんなの一回考えた上でやってるってことですよね。「わかってる。でもやる」です。そうしてやってることには意味があるんですよね。ローソンのPBの件も何でもそうだと思いますが。


 
これ「外野は黙れ」ということじゃないんですよね。外野は好き勝手言うもんです。中の人はそれ以上にもっと好き勝手やれと思います。その方が面白くなるから。


 あ、CCC自体はもっと改善できるところはあると思いますよ。「図書館やめろ」とか「Tポイントやめろ」とか。この話は一時期その店舗で働いていた人間による感想でしかありませんのであしからず。というわけで、そろそろお仕舞いです。長々とお読みくださった方、ありがとうございました。


 ついでに言うと、代官山蔦屋が何か新しい価値観を提示するというフェーズはもう終わっていると思います。良くも悪くも街の本屋として根付き、それを継続させていくのがこれからの役割なんじゃないかと。他にも面白い試みをしている本屋は沢山あります。好きです本屋。今が一番豊か。本屋に行こう。


 あと「ライフスタイル」「セレクト書店」みたいなのにもやっとする人は三品輝起さんの『すべての雑貨』(夏葉社)を読んでください。僕のツイートの5000倍は有益な時間になりますので


『すべての雑貨』
4月21日取次搬入で『すべての雑貨』 という本を刊行いたします。 著者は、西荻窪の雑貨店「FALL」の店主、 三品輝起さんです。 この本がデビュー作となります。 三品さんの素晴らしさをどう説明すればいいのか、 いつも迷うのですが、まず、FALLという店が 素晴らしいのです。 しかし、この本は雑貨の良さを語る本ではありません。 21世紀に入って爆発的に増えた雑貨屋、 さらにいえば、雑貨とはなに...

 続きのようなものを書いています。


 「ライフスタイル」も「カルチャー」もなんというか、しゃらくさいですよね。そう謳われている9割以上のものは空虚なものだと思いますよ。でも一握り(ほんとに一握りだとは思いますが)芯食ったことやってる人たちがいるんです。僕はそういうものは信じたい。本を取り巻く環境や本屋運営にまつわる話は内沼さん(@numabooks )が既に数年前に書いてますし、実戦もされてます。ので、興味ある方は僕の周回遅れの話なんかよりこちらのnote(できれば本を!)お読みください!


【全文公開】これからの本屋読本|内沼晋太郎|note
『これからの本屋読本』(NHK出版)の本文を、すべて無料で公開します。現在、平日毎日ひとつずつ新しい記事を追加中です。ぜひコピペしてSNSやブログ等で引用したり、議論の土台にしたりしてください。これからの本屋が盛り上がっていくきっかけに、少しでもなれば幸いです。もし気に入ってくださったら、紙版や電子書籍版をお買い求めいただけれたらうれしいです。


一本屋の話にこんなにリアクションがあるのに!なぜ!本屋は儲からないんだ!という気持ちです。「オシャレ本屋(笑)」みたいに言及される店ではありましたが、全国にフランチャイズされる店舗のデザインにオシャレもクソもないとは思いますね。「おしゃれ」と「デザインされた」は全然別。余談ですが、デザインされたものを安易に「おしゃれ」とする態度は単なる無思考です。

 百年さんの「「本屋」への愛があったのかというとわからない。本という商材を使ってただ商売をしているという印象の方が強いからだ。そこに行く人、集まる人、出版社も結果それに加担してしまっているように思う」は全く同意です。


 お店の方針には愛を感じない部分もありましたし、結果自分も加担していたとは思います。そこは自分もぬるかったと言うしかありませんね。百年さん、大好きな書店です。みなさん行ってください。

 今は書店ではなく自分で出版社をやっています!『MATSUOKA!』最高なのでご覧ください!

『MATSUOKA!』の購入はこちらから!https://pipe.official.ec/items/20523434
https://twitter.com/nao4200/status/1270249675468140545?s=20

*1:TSUTAYA的なるもの」を現場でまわしていたとおぼしき御仁の体験・見聞談。文面からビミョーに察知される「ああ、そういう人ね」感も含めて、ある意味同時代の「証言」として。

*2:もちろん、自分的にはこういう人、こういう感覚やノリ、肌合いの御仁とは、おそらく相性はかなりよくないだろうことはわかるし、と同時に、こういう感覚やノリ、肌合いの人がたというのが、本屋のみならず出版や広告・宣伝、メディア界隈――まあ、ぶっちゃけ「ギョーカイ」(死語っぽいが)周辺の標準設定みたいにして、「イケてる」自意識もてあましつつ、でも結局似たもの同士の潮だまりに澱んどらすようになっていることが、そうなっていった経緯の概略含めて、これは自分自身の体験・見聞としてもよくわかる。

*3:敢えて太字にした部分、このあたりが「そういうとこや」と感じるポイントだったりするので、これは参考までに。