先進医療終焉の予兆

 恐らく日本で先進医療が受けられるのは今がラストチャンスで、本当に近い将来世界で使われている薬が日本だけで使えなくなる未来がやってくると思います。一番の理由は財務省の過度な薬価引き下げで製薬会社として日本は魅力のない市場になっていること、次に科学的プロセスを無視した国産薬承認です。


 まず一つ目、財務省は既定路線として薬剤価格を下げることで医療費を抑えようとしていますが、これにより必須薬でも値段があまりにも低いことで製薬会社がその薬剤を製造するインセンティブが無くなってしまい、有事の際に国内で深刻な供給不足をきたす事例が既に水面下で起こっています。


 ここ最近で一番危機的だったのは2019年頃に手術の際に周術期感染を予防するために必須なセファゾリンが大学病院ですら充分数確保できなかった時です。セファゾリンは薬価が極めて安く日本では日医工が市場シェアの半分以上を占めており、原薬を作る海外企業の工場停止で深刻な供給不足に陥りました。


 セファゾリンは WHO の必須薬のひとつですが、財務省の著しい薬価引き下げで国内企業からするとあえて生産するインセンティブがなく、その生産のほとんどを日医工に依存していました。その結果、海外サプライチェーンのひとつの綻びで日本全国でセファゾリンが使えない異常事態となりました。


 当時はセファゾリンがほとんど入ってこなかったので、最適な選択肢ではないと分かっていてもセフォチアムや場合によってはセフメタゾールなどでなんとかお茶を濁さざるをえず、日本全国の手術を受ける患者さんが1年近く影響を受けることになりました。


 同様の事例は緑膿菌などの耐性菌の治療に必須なピペラシリン・タゾバクタムでも起こっており、財務省の過度な薬価引き下げで日本国内で薬剤生産能力のバッファーが全くないので、サプライチェーンのどこか1箇所でも綻ぶと日本全国が影響を受ける状態になっています。


 これは何も抗菌薬に限った話ではなく、先端医療でも同様の事例が起こっています。例えば癌の免疫療法を根底から覆したニボルマブ(オプジーボ)は市場に出た当初は年間治療費3,500万円とも言われる高額薬でしたが、僅か4年間で薬価は75%近く下げられています。


 これはもちろん患者側からすると良いことなのですが、製薬会社からすると現代の新薬開発には莫大なコストがかかるため、薬価引き下げでコストが回収できないと判断された場合日本市場では発売しないという判断がなされても全く不思議ではないでしょう。