雑書の行く末、のこと

 大学に拉致されたまますでにほぼ3年、いずれやくたいもない雑書の山なれど、裁判の決着がどのようになるにせよ、来年3月には泣いても笑っても定年の身の上、研究室と学科実習室にあるそれら雑書古書からVHSビデオやらその他LD、DVなどのレガシーメディア再生機器一括に、果てはあれこれ内地から持ってきたガラクポンコツのあれこれまで含めて、一切合切持ち出して始末せねばならぬ定め、その始末の腹づもりを具体的にしておかねばならなくなっていたところ、少し前、たまたま市内の不動産屋のサイトでピンとくる物件に遭遇、築40年以上のあっぱれなボロビルではあるものの、40平米あまりの部屋が月々※円 *1 で賃貸に出ていたとなれば、さすがに放ってはおけない。善は急げと連絡して待ち合わせ実地に見に行き、なるほどこれは訳あり物件、水道もガスも使ってはならぬ、トイレも風呂もついてはいるがそれも使用厳禁、電気だけは許すかわりに、住居としてでなく倉庫物置としての使用ということで契約してくれ、といういささかけったいな条件だったものの、こちとら的には願ってもないこと、さらに加えて同じビルに複数同様の物件があったがすでに埋まり、これが最後の一つです、とまでダメ押しされたら、えい、これも何かの縁、一年単位の契約で年に※※万円ならば確かに格安以上の格安物件なのは間違いなく、言いなりにその場で手つけを打って決めることになった。*2

 その契約がこの6月からで、とりあえず何とかそれら雑書古書ガラクタの山の置き場所を確保できたことになり、それはそれでまあ、ひと安心というかひと心地つけたような気分ではある。研究室にあるのが、日本ファイリングの書棚にして都合14本分あまり、実習室と称する大部屋にもまた別途、7本分に加えて、その他あれこれ積み上がっている古雑誌やら何やらあるから、まあ、クロネコ仕様の10号段ボールに放り込んだところでざっと150箱くらいにはなりそうな勘定。箱詰めは自前で頑張るとしても実際の運搬は業者を頼むしかないだろうが、その前にまず、当の書庫となるべきビルの部屋にもそれなりの書棚なり何なり置き場所をしつらえねばならず、これもこれで別途ものいりゆえのカネの算段もせにゃならぬ。なんだかんだでまあ、来年年明けくらいには最終決着つけられそうな気配の裁判沙汰で、しかるべきカネを分捕る目当てが具体的につくまでは、まだもうしばらくはあれこれカネの算段を続けねばならぬらしい。

 かつて浅羽通明に「戦後思想史おたく」と言われたのは、思えばもう40年以上も前。当時はちょっと鼻白んだ記憶もあるが、だが言われてみれば確かに言い得て妙で、さすがにうまくこちとらの本質を言い当てていたんだな、とその後の道行きで何度も思い当たり、ある時期からこっち自分自身でもそんなものなんだと自得するようにもなった。それが証拠にこの雑書古書の山、あらためて中身を省みてみればなるほど、近現代の思想史生活史精神史、いや何でもいいが、いずれそういう人文系的な間尺での民俗学的歴史の来歴をそれなりにたどろうとする際、自画自賛なれど、これはこれでなかなか悪くないラインナップになっているのかもしれない、と思ったりもする。少なくとも、ご当地北海道の大学や公共図書館にはないようなブツも含めて、こういう脈絡でまとまってはいないはず。かの山口昌男がかき集めていた山口文庫版、いま札幌大学の図書館の地下書庫の深い隅の方にとぐろを巻いてたたずんではいるけれども、あのへんと併せ技で手に取って自前で逍遙するような有志がもしも現われるようなら、その際はいくらでも便宜をはかる準備はあるつもり。

 とは言うものの、さて、実際にどこから手をつけていいものやら。いまいるアパートの中ですらもうわけのわからん本の山になっていて、まずはこの手もと足もとの八重葎からなんぼか整理して、その新たな居場所にちみちみと運んでゆける下ごしらえ程度はし始めておかねばならんのだろうが、本というやつ、いざ手に取って整理をしようとし始めるとかなり体力も筋力も使うもので、こういうところでも加齢の弱りを身にしみて思い知ることになるから情けないことおびただしい。先日も、とある集まりの打ち上げっぽい酒席で最後、立ち上がって帰ろうとした時、掘りごたつ調に足もとがくりぬかれていたところに片足突っ込みつんのめり、あやうく転倒するところ、何とかしのいだのだけれども、見事に片足の太ももの裏、昨今ハムストリングとか呼ばれて居るあたりが軽い肉離れっぽいことになり、やれ情けなや、と、びっこひきひき家に帰って冷蔵庫に死蔵していた湿布薬を貼って養生してみたのだが、翌翌朝あたりになると今度はその逆の足のふくらはぎが突然パンパンに張ってきて、ああ、もうこりゃ競馬ウマならとっとと休養放牧、いやいや、こんな高齢使い詰めのポンコツ馬ならそのまま横積み廃馬になるのが関の山だわ、と、ひとりごちつつ、両足あちこちにペタペタ湿布薬のモザイクをこさえ、ふと鏡を見るとなんだろう、すっかり肉の落ちたケツから太もも、膝下あたりのたたずまいが、幕下陥落してなお現役を続けざるを得ない年取った相撲取りみたいになっているのを自ら見てしまい、思わず大きなため息がもれた。

 

 

*1:具体的な金額は伏せるが、ご当地的にも(゚Д゚)ハァ?レベルのかなりな破格ではあった。

*2: 住居として使われている部屋もまだ残っているのだが、どうも高齢者の単身世帯ばかりのようで、つまりそれらの世帯がいなくなる(忖度表現)までの間、すでにあいている部屋はうっちゃっとくよりは固定資産税の足しになれば程度の捨て値で貸す形にしてしのぐ了見、とみた。