白いケーキ、のこと



 父が多分もうすぐ死ぬんだけど、急にそんなことになり気苦労で疲れた母に、何か食べたいものがあるかと私の嫁が私の母に聞いたら「シャトレーゼの本当の白いケーキが食べたい」と言うので明日買っていく。母は継母に雪の山道を裸足で学校に行かされるような虐待を受けて育ち、朝から晩まで働かされていた。大人になってもよく働き、私が小さい頃は、朝は3時に起きて牛乳配達をし、昼は給食の配膳センター、夜はストッキングを一足詰めて1円とかの仕事で動き続けていた。母は草をむしるのが人の10倍早い。両手を使ってあっという間に畳一枚ほどを更地にしてしまう。高等教育は受けていなかったが地頭は多分よくて、趣味はナンプレの最上級難度の本を安く買ってきて毎晩解くことで、簡単簡単、と言ってもう何十冊も解いている。そんな母がショートケーキという単語も知らないほど働きまくって私を養ってくれていたのだなと思って、なんだか今なんとも言えない気持ちになっている。


 娘は卒業式の時に着た服を着ていって2人に見せるんだと言っている。明日私の両親に会いにいく。シャトレーゼに寄ってショートケーキは5個買っていこうと思う。