「詩」≒「うた」という足場から敢えて・雑感

 このところのゆるいなりゆきではあれ、詩と詩論界隈のものを割と読み直したり、また芋づるで新たに読んだりしていると、口語自由詩の普及浸透といわゆる流行歌の受容などが日常の場において地続きだった可能性についてあらためて考えてみるようになっとって、これは冗談でなく割と厄介な要検討お題。*1

 さらにそれらの下地に、いわゆる浪漫主義という語彙でこれまで割とあっさりくくられてきた思想的な(これもまたそういうくくられ方をしてきたわけだが)動きの背後に「抒情」や「童心」、さらにはもっと素朴に「感動」などを足場に、要は身の丈の身体に宿る何らかの感情の〈まるごと〉の解放へのモメントを伴った「個」の意識が、黙しがたい熱量を伴ってうっかり宿っていて、それが明治期由来の「英雄」に新たな〈リアル〉を付与するようにもなっていたこと、そしてその〈リアル〉を当時の〈いま・ここ〉において言語化するに際して、たとえば「人間」といった語彙が重心かけられた説明に使いまわつれていて、あらゆる固有名詞、何らか人口に膾炙し人々の意識にのぼるようなものならば、文学芸術などの分野から洋の東西も問わず、それこそマルクスなどに至るまでそのような「人間」的な要素の側から人物造形されるようになってゆき、だからそのような意味での「偉人」「英雄」ひいてはリーダーシップ像などまで波及、影響して当時の新しい世代、ある種若い衆らの気分の下ごしらえに寄与していた、とまあ、そんなあたりの問題意識なのだが。

 で、旧来の民俗レベル含めて醸成共有されていたはずの「人情」「情」の水準と、それら新たな〈リアル〉はどう関係していったのか。それこそ浪花節的な「英雄」像、望ましいリーダーシップの描かれ方――俗に「義理」「人情」ベースで「封建的」などと否定的にもとらえられていたものとの間の繋がり具合はどうなっていたのか、なども。*2

 労働の現場、生産点での人間関係から、軍隊に至るまで、概ね大正期から昭和初期にかけてくらいの時期に、それら同時代の気分やココロの傾き、世代差含めた当時の〈いま・ここ〉の気分などがどのように具体的に影響していたのか、という視点もまた、少し別の高度からの必要。

 そういう文脈での「人間」には、たとえば「恋愛」だったり「家庭生活」だったりといった位相がクローズアップ的に前景化され、合焦される傾向があったりしたらしいこと。まあ、これもざっくり教科書的な語彙と間尺で置換してしまえば、大正ヒューマニズム&リベラリズムの諸相の具体的水準でのハナシでもあるんだろうが、ただそれが浪花節ヒューマニズム(梶原一騎の名言、だが)となって戦後にまで揺曳してゆくようになるまでの経緯来歴由来をうまく跡づけられないものか、という思案投げ首。

 そのように考えてゆくなら、たとえば昭和初期の少年小説の主な読者層が、概ね大正初期から中期くらいに生まれた世代だったとして、ものごころ付いてゆく過程でそれら新たな〈リアル〉ネイティヴとして社会化していった者たち、だとすれば、言葉本来の意味での思想史、精神史、世相史としても結構見逃せない視点につながってくるのではないか。少なくとも、これまでのそれら思想史、精神史的な脈絡に〈それ以外〉の視点からの読み直し、それこそ歴史人類学的な「関節外し」(ああ、80年代ポスモ的……)による見直し、異化を介して新たな歴史像(これまた言葉本来の意味での)が現前化できるかもしれない、ととりとめなくも漠然と。

 「うた」というお題から毎月、割と自由に好き放題に書かせてもらう場を、いまどき紙媒体に提供してもらえるという、考えたらかなりシアワセな境遇にここ数年、かの「懲戒解雇」騒動の真っ只中からめぐりあわせで恵まれているのだけれども、それを橋頭堡にこれまでなかなか自分ごととして読み直したり、また手を拡げたり本当にはしきれていなかったいわゆる文学や芸術関連の分野における新たな認識の獲得に、まあ、ちみちみと千鳥足の道行きでやってくることができているのは、まず素朴にありがたいと思っている。
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*1:たとえば、こんな感じの余録というか、これまでなら立ち止まって考える素材にはなりにくかったであろうものにも、それなりの留保ができる程度には。king-biscuit.hatenadiary.jp king-biscuit.hatenadiary.com

*2:こんなお題での密度のそれなりにある考察や論考が、しかも新書のたてつけで平然と、だった時代はもう昔語りではあるのだろうが…… king-biscuit.hatenadiary.jp

*3:2020年の10月から、ではあった。無職全裸還暦老年になったのをあわれに思っての救いの手、ではあったのだろうが、それでもそんな救命胴輪のひとつも投げていただいたことには感謝している。king-biscuit.hatenablog.com