「安かろう、悪かろう」の現在・メモ

 アパレルもまた、全国区展開してしまうと「中央」の統括一律になって、個々の地域や地元の消費傾向などを察知してきめ細かな対応ができなくなるらしいこと。できなくなる、というより、する必要が経営的になくなってくる、ということらしく。全国区の目線での経営的にはそのような細かな対応をするコストや割くリソースがムダという判断になるらしく。

 地元の個人経営の路面店などはそれらに対応して、たとえば北海道だと今年はまだ寒いからセーターとか防寒着をちょっと仕入れてみよう、といったこともできるし、またそれで得られたささやかな儲けも意味があるのだろうが、大きな規模で展開している端末としての地元店になると、それをやって出た儲けは全体で吸収されて意味がないからやらない、になる、たとえばそういうことらしく。

以下、某若い衆の勤め先での見聞・体験談。「もう冬物のセーターとかが並ばなくなっているンですよね」というなにげないひとことからのグチ、聞き書き的なメモとしての、要約。

 ちょっとしたブランドになっていたアパレル屋が、中国生産からベトナムに生産拠点を移したこともあって、以前より明らかに製品の質が落ちた。モノとしても、またセンス的にもどうかなぁ、と思わせるようなものになっていて、それは店員たちがよくわかっているのだけれども、在庫が積み上がってしまう、それを処分するためにタイムセール的に半額で売り出したりしているのだが、そうなると昨今のこと、その半額セール目当ての客が集まってきて、またいつもの客も「半額だから買う」マインドになって、ブランドとしてのクオリティも低下してしまう。


 何より、経営がうまくまわっていた頃なら、同じ在庫処分でも一気に7割引きとかできたものが、半額でもキツくなってきて旨味もなくなってくる、地元の店の察知している客の傾向や地元ならではのニーズを「本部」にあげて独自の対応できるようにしてゆけばいいと思うのだが、それをやっても「本部」はあらかじめ決められた方針の微調整をしないし、聞く耳も持ってもらえない、何よりそれをやる手続きその他で時間がかかって、個人経営の小さな路面店の対応の早さに勝てない、半額ワゴンセール的な売り方も先にやられてしまったりする、そう言いながら、自分たちも背に腹は代えられないからワゴンを出しての半額タイムセールみたいな売り方をしている現状。

 全国区展開しているような大規模のチェーン店的店舗と、個人経営の小さな路面店と、共存してゆく方策というのは大店法導入このかた、あちこちであらゆる手立てが講じられてきて、でも結局のところは「イオン」圧勝、地元の路面店の集まった商店街壊滅、というのがここ四半世紀このかたの本邦「地方」「地域」の「衰退」のお約束な方程式になってきているわけで。

 ドンキや各種ディスカウントストア、果てはスーパー玉出みたいなのまで含めて、以前ならば要は「安物」「バッタ品」専門店で日常を支える衣食住のルーティンを買う/買えるようになっている現在、「品質」の意味あいもまた、それまでと違ってきているかも知れない。ブツとしての質の高さが「ブランド」の価値を支えていて、それは当然価格にも対応していて、といった商品世界に対するある種の「序列」感覚というか、そういうものも消費者の側からどうでもいいものになっているのかも。

 「半額だから(安いから)、(質が悪くても)いいのよ」で買ってゆくようになる消費者マインド、の全面展開。そういうマインドが、業界や地域その他の違いや特質を問わず、とにかく全面的に全国的に一律当たり前 (と思われるよう) になってゆくこと自体、デフレ状況が固定化してゆく要因のひとつだったりする面もあるのかも。半額でも何でも、そういう「安い商品」(「安物」って言い方も廃れたかも)でも最低限の使い勝手とか、当面の使用には不都合ないくらいの品質を保てるようになっている、という前提もあるとは思うが。「安かろう悪かろう」にも許容範囲はあるし、その範囲も技術の進展で変わってくるところもあるような。