日本語がうまい外国娘、のこと

 昔ロシアにいたとき、日本のドラマを見たり日本人の友達と会話したりするだけで日本語を習得して、めちゃくちゃ日本語が上手に話せるあるアジアの国の女の子がいたんだけど、その子に「日本に行くためにビザを取るから、イセポ、一緒に大使館に行って」って言われて一緒に言ったことがある。


 「日本語めちゃくちゃうまいんだから、俺が一緒に行く必要はないでしょ」と言ったんだけど、彼女は「難しい日本語を使われるから助けてもらいたいの」と言った。よくわからないけど困っているようだから一緒に行った。


 日本は、彼女の国から観光ビザで来る若い娘がホステスとして働くようになる事案に手を焼いていたようで、職員からは色々質問された。いつもおしゃべりな彼女はそのときはあまりしゃべらず、代りに僕が受け答えをしていた。


 職員がある質問(どんな質問だか忘れたが)をしたとき、彼女が職員に「ちがうよ!そうじゃないよ!わたしは…」と話し出した。日本人のような日本語を話すと普段は思っていた彼女の日本語が、そのときの僕にはアジアの国から来てホステスとして働いている娘の日本語そのものに聞こえたのだ。


 彼女の日本語は、友達と話す目的のためには完璧だったが、彼女はそのスタイル(レジスター)しか持っていなかったのだ。明らかに大使館員に対して大人が話す話し方ではなかった。彼女もそれが分かっていたから僕を呼んだのだ。


 こういうときはむしろ発音が下手くそでも、高級な語彙と文法で話した方が信頼される。流暢な発音で、場に相応しくない語彙で、敬語を使わない話し方は、余計に怪しまれる。こういうのをビッチアクセントという。


 失礼。


 とにかくあのときは外国語がネイティブ並みにうまいとは一体どういうことなのかと考えさせられた。言語というものの奥深さを痛感した。