マリトッツォ、または「白いクリーム」関連・雑感

 ファストフードで「出して欲しいバーガー」のアンケートを取ると必ずローカロリー野菜バーガーが上位に来るけど現実はメガ盛りの下品バーガーが売れる。客の意見は建前が入るから当てにならないって言うよね。でもマリトッツォって逆にメガ盛りスイーツのオシャレ言い換えだと思うの。あれは発明ですよ


 元々イタリア伝統の菓子だとかそういうことじゃなくてさ。日本で当たった理由はそういうことなんじゃないのかなーと。

 これを爆盛りド級生クリームパンって言うと駄目なんでしょ?

 だから実は興味津々なんだけどちょっと品がなくて一般客が手を出しにくそうだった食べ物にオシャレ系な名前とそれっぽい出自を付ければ日本で大ヒットするということではないのか。二郎系ラーメンに「これは本場フランスで伝統的に食されているパスタ『パタリロ・ド・マリネールです』」とか言ってさw

 いつまで続くものかはともかく、2021年の夏あたりから流行していることは間違いない喰い物。単なる生クリームないしはホイップクリームをてんこもりにはさんだクリームパン、というのは概ねその通りのブツではあるが、ただそのパン生地も揚げパン的な感触の生地だったり、やかましくこだわるなら「違い」はあると言えばある。

 で、なんでこんなものが、ということになるのだが、要はこの生クリームないしはホイップクリームをどれだけうしろめたさなくてんこもりに喰えるのか、というあたりの、近年本邦世間一般その他おおぜいの潜在的な要求に答えたメニューの一環なんだろうな、と。少し前もてはやされた「パンケーキ」などと同じハコ。あれも本体はそのパンケーキ生地の上にてんこもりにされたそれら生クリームないしはホイップクリームだったわけで、さらにあれこれ果物やらアイスクリームやら何やらをトッピングしようが、眼目はあの「白いクリーム」ではあったはず。

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 同じような流れで「パフェ」ブームというのも少し前からあった。それも夜のバーやカフェ的なしつらえの店でメニューとして出されたり、さらにそちらが主体の「パフェバー」になったりとまあ、かつての「辛党/甘党」などという区分などすでにどっかへすっ飛ばされた潔さだったわけだが、あれも思えば「白いクリーム」をうしろめたさなく、心おきなく摂取していい、という免罪符をどう合理的に獲得できるか、という消費者側のココロの敷居をうまく解除してくれるたてつけになっていたのだろうと思う。

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 本邦で割と早くから身近な「洋菓子」のひとつになっていたはずのあのシュークリームにしても、もとはカスタードクリームだったはずなのだが、生クリームないしはホイップクリーム(しつこい)をあわせて入れるようになり、最近はカスタードを押しのけて生クリームないしはホイップクリームだけのものも普通に並ぶようになっている。

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 個人的な記憶に限れば、確か小学生から中学生くらいの頃だから1970年代の前半から半ばくらいの頃、当時住んでいた阪神間の阪急沿線駅前の小さな洋菓子店のシュークリームに、この生クリームを入れたものが新たに出現していたような気がする。店の名前は「エルベ」。それだけで何か贅沢感というかステキ感が格別で、まわりでもそれなりに評判になっていたはずだ。それは同じく当時、地元のスーパー(生協だった)の店頭で売られていたソフトクリームが、それまでの3倍くらいの分量の「おばけアイス」というメニューを出して、これもまたガキ共の間で人気だったことなどとあわせて、「白いクリーム」の魅力が少なくともその頃、すでに何かあやしいチカラを発揮しつつあったらしいことをうかがわせる記憶になっている。

 なのに、どういうわけか、その「白いクリーム」そのものを思うがままにトッピングできるようにしつらえられているスプレー式の商品、いかにもアメリカ的な「文句あるかよ、あるわきゃない♬」的なシロモノでミもフタもない感じを受けるあれらは、しかしこと本邦の食物商品市場ではそんなに存在感を増しているわけでもない。国産化されたものだけでなく、モロに輸入品のデカいやつもコストコでも最近は売られているものの、そう売れている風にも見えないのはさて、どうしてなのだろう。どうも記憶の底を探ってゆくと、あの「白いクリーム」だけをただそのために心おきなくスプレーで使いまくる、というのは、とにかくそうそうやってはいけないような究極の贅沢、ある種ムダ遣いの最たるもののような「バチあたり」「もったいない」「烏滸がましい」などの感覚がすんなり引き出されてくるような行為だったようなのだ。古い世代ならば「冥加がおそろしい」とでも言うような、そういう感覚。

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 「白いクリーム」で連想するなら、まず「練乳」というのがあった。コンデンスミルクというカタカナ表記で売られていたが、あのへんが「白いクリーム」幻想の原風景だったかもしれない。

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 あれをイチゴとあわせた「いちごミルク」という喰い物あたりは、おそらくそういう「白いクリーム」が戦後の本邦その他おおぜいの意識に刷り込んだであろう何らかの幻想なり夢なりを、喫茶店の「パフェ」などでなく、最も身近な台所の食卓でささやかに実現できるようにしてくれたものだったような気がする。もちろん練乳、コンデンスミルクをかけるのは贅沢だったわけで、多くは「牛乳」で代用していた、だからこそ「いちごミルク」の呼称になっていたのだが、ただそれ以前にまず、イチゴをそのまま生で食べるのでなく、わざわざ牛乳なり練乳なりをかけて、さらにその上それをつぶして食べるというスタイル自体がもう、身近な非日常感を醸し出してくれるものだったのは記憶の裡でも裏づけられる。そういういちごの喰い方のための「いちごスプーン」が最初に発売されたのが昭和35年、1960年らしいから、その頃すでに「いちごミルク」(と呼ばれていたかはわからないが)といういちごの喰い方は普及し始めてはいたらしい。

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 さらにその味と意匠とが「いちごミルク」という新たな名前を獲得して、ガキどもにとってもっと身近な菓子のテイストに入り込んでくるのが1970年。

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 ああ、こうなるとあのサンリオを一躍、キャラクター商売に覚醒されることになったとされる「いちご柄」問題にまで波及してくるなぁ、というわけで、「白いクリーム」から例によってとりとめない連想妄想連関想起をやってみた次第。もちろん「結論」などはない、あるわけもないので、継続検討&審議なお題の備忘録としてとりあえず。

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