「日本はまだ大丈夫」説の構造

 あまりに悲観説ばかり横行している分、こういうカウンター言説も当然、出てきます。

 政治と官僚のコントロールが壊れ始めてるものの、民間の、とりわけ技術面でのアドバンテージというのはなるほど、蓄積はあるし、まだ十分余力はある、という見方は理解できます。

 ただ、こういうアッパー系楽天論者たちっていうのは、記事中の固有名詞見ていても、ああ、そういう人たちね、と思ってしまわざるを得ないような、ビミョーに(時に露骨に)胡散臭い、ある種特殊な限られた人間だったりするのがなんだかなあ、と。文中の固有名詞の並び具合、あたしなどは「ハア?」な人選で、それだけでもう何だか萎えてしまうようなシロモノです。

 このへん、結果ありき、で企画を立てて、それを補強してくれそうなソースにまずあたってしまう、編集部自身の力量のなさが問題だったりするんですが、それもまた、いまどきの情報環境由来の構造的なものなわけで、「経済」や「現在」を捕捉する仕組み自体が以前と違う煮崩れ方をしているようです。

 現にこの記事も、実は後半、(中略)部分に、アニメ等「カワイイ」系グッズ市場や例の「クールジャパン」系言説を接続していて、(しかもそこでのコメントが森永卓郎とか……・゜・(つД`)・゜・)前半の技術面での紹介部分(その真偽はともかく)を台無しにする構成になっていて、このへんの仕分けの鈍さみたいなものは昨今、蔓延してますね。

 眼前の事実、〈いま・ここ〉の現実をとらえることばの仕組みそのものが、これまでと違ってきている、そんな情報環境のまっただ中で、「日本」を、「将来」をうんぬんしているという自覚もまた、同時に必要なのが、いまどきの現実を生き抜くためのリテラシーになっているようです。

■もっと自信を持っていい


 「失われた20年」「デフレは終わらない」「日本経済は中国に追い越される」・・・などなど、日本の将来への暗い予測を新聞やテレビで聞かない日はない。もうこの国に希望はないかのような雰囲気だ。

 だが、悲観する必要はまったくない。本当は、日本は十分すぎるほど強い。

 10月25日に中国政府直属のシンクタンク中国社会科学院」が発表した報告書で、日本の国際競争力はアメリカ、EUに次ぐ世界第3位とされた。中国は17位。報告書は日本について「アジアで絶対的なトップの地位を保っている」と記している。

 要するに、これまで政治的にさんざん日本を軽侮するかのような態度を取ってきた中国が、本当は「日本は凄い」と認めているのだ。いや、彼らの本音を正確に言うと、「腰抜けの政治家と何もしない官僚以外、日本は凄い」となるだろう。


 そもそも「中国が成長すると日本が弱くなる」という中国脅威論は、日本政策投資銀行参事役の藻谷浩介氏が著書『デフレの正体』で指摘したように、まったく誤った俗説にすぎない。事実は、中国経済が成長すればするほど、日本の対中貿易黒字は膨らみ、日本が儲かる仕組みになっている。実際の日本は、世界に冠たる黒字大国なのだ。


 よく、日本の弱点として「資源の輸入依存」が言われる。確かに日本は、石油や天然ガスなどの資源を多く輸入している。しかし、「資源問題が日本の弱点」だというのはまったくの誤解?と断じるのは、経済評論家の三橋貴明氏だ。

 三橋氏によると、日本の領海と排他的経済水域には、実は膨大な資源が眠っている。その量は(アメリカ、フランス、オーストラリア、ロシア、カナダに次いで)世界第6位。

 「天然ガス(メタンガスが氷状になったメタンハイドレート)に関して言えば、調査が終わった分だけで、日本国内の天然ガス需要の30年分が眠っていることが確認されています。全部で100年分になるという観測もある。この採掘が採算ラインに乗れば、日本は無敵国家になるでしょう。

 日本では、海水からウランを抽出する技術も進んでいます。全国の原子力発電所で消費するウランの量は、年間で合計約8000tですが、黒潮が毎年日本に運んでくるウランの量はその600年分以上に当たる約500万tです」(三橋氏)


 ウランを海水から採取するコストは年々下がっており、現時点で、海水から取れるウランは市場価格の2倍程度。近い将来、日本はウランの輸出国になる可能性もあるという。


 現在、日本の圧倒的な武器は、他国の追随を許さない圧倒的な技術力だ。ナノテクノロジー(原子や分子のレベルで物質を制御する技術)を駆使して作る携帯電話の部品や基板ガラス、半導体の検査器具などは世界で大きなシェアを占め、各国のメーカーから引っ張りだこになっている。


 ロボットの開発でも、日本は世界の最先端。特に人間に似せたヒューマノイド型ロボットの近年の発達には素晴らしいものがある。

 帝京大学経済学部教授の黒崎誠氏が説明する。


「日本の潜在的な技術力には大変なものがあります。今すぐノーベル賞をもらってもおかしくない研究者が20人くらいいる。中国や韓国には、今のところそういう人材は見当たりません。日本が世界一のシェアを持っている産業分野も、少なくとも17あります」


 黒崎氏によると、意外そうなところでは、高張力鋼(強度が高くて加工性の良い鉄)、種苗、有機EL内視鏡、大型冷凍庫・・・といった多くの分野で、日本が世界トップクラスの技術水準を保っている。


 日本が持つ高度な技術の中には、単なる工業技術にとどまらないものもある。成長戦略総合研究所理事長の山崎養世氏は言う。


 「日本は必ず世界経済の主役になれる力を持っています。日本の技術には、人類の危機を解決できるものがたくさんあるからです。環境技術の4割?6割は日本にあるし、ハイブリッド車トヨタとホンダしか製造できません。電気自動車も最先端は日本です。それらの点で、アメリカや中国は日本に全然追いつけないでしょう」


 山崎氏によると、たとえば神戸製鋼所が開発した技術「ITmk3(アイティ・マークスリー)」 は、世界の製鉄を一変させる画期的なテクノロジーだという。これによって、従来は捨てられていた質の低い鉄鉱石や石炭が使えるようになるため、コストが下がり、CO2も20%ほど削減できる。鉄不足に悩む人類にとって、救世主のような技術なのだ。


 また、発電所が作った電気は、送電の過程でどんどん失われ、アメリカのような広い国では3割くらいしか届かないこともある。この送電ロスをなくす「高温超伝導ケーブル」を事業化したのは世界でただ1社、住友電工だけだという。

(中略)

  

 日本人と日本企業が持つ巨大な潜在力。では、それを活用して世界のトップランナーに返り咲いた後、私たちは何をすべきなのか。アシスト社長のビル・トッテン氏は言う。


「近い将来、世界経済は半分程度の規模に縮小すると思います。それは第一に、過去200年続いた『化石燃料に依存する経済』が終焉するのに、代わるものがないから。第二に、今の経済の大部分は、広告の力で無理やり作られた需要ばかりのインチキなものだから、崩壊してしまいます。

 その中で、日本企業は伝統的な強みを維持していけばいい。その強みとは、開発や製造のための先端技術と、人間を大事にする経営です。そうすれば、良質の製品を低価格で提供し、高賃金の雇用を生み出して、国民の幸福と健康と豊かな生活に貢献するという使命を果たすことができます」


 他国との比較に一喜一憂せず、やるべきことをやれば、日本はまだまだ強い。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/1515