習近平独裁体制の確立・メモ

【なぜCWEBが下がるか】

 中国の5年に一度の共産党大会で、習近平を筆頭とする7人の幹部が選出された。
 一方で、胡錦濤は会場から退場させられ、李克強は定年前なのに完全引退させられた。
 これにより、中国のテックの深刻な没落はますます加速すると思われる。
 なぜテックなのか、雑に解説していく。


 中国は中国共産党が一党支配するため、共産党内の序列が国家運営の序列になる。
 共産党には政治局常務委員(=神7)と呼ばれる幹部がいて、この7人が国家運営を司る。
 さらに政治局員(=選抜メンバー)も重要で、24人が該当する。神7と重複もある。
 5年に1度なので、誰が選ばれるかが今後に強く影響する。


 中国では国家主席(=習近平)が国のトップである一方で、エリート官僚出身者やインテリが国務院総理(=首相=今の李克強)を担い、行政、主に経済や科学技術実務を行うことが多い。


 中国は官僚機構が発達しており、共産党内部でも立場の違う人間が互いに修正しあって間違った方向に導かないようにしてきた.


 中国は理系のインテリが政府の中枢に多くいた。
 例えば前の前の国家主席江沢民上海交通大学卒(南京中央大学が合併してだけど)のエンジニアであったし、それを支えた1人目首相の李鵬もモスクワで学んだ水力発電エンジニアであり、国家の工業の発展に貢献した。


 江沢民政権の2人目の首相の朱鎔基も、名門・清華大学工学部卒の技術官僚であり、中国工業経済発展に貢献した。


 胡錦濤国家主席(任期:2003年〜2012年)は、教員兼お茶屋さんの息子であり、朱鎔基同様、名門・清華大学水力工学部を卒業し、地方政府でエンジニア、技術官僚としてダム建設などを主導し胡錦濤を支えた温家宝首相も教員の息子であり、超名門ではないが中国地質大学を卒業して、地質技術者として鉱業などの技術指導員として活躍した。


 胡錦濤政権のあと、習近平李克強で総書記(=国家主席)争いをしていたが、習近平に破れ、序列1位の習近平が総書記、2位の李克強が首相となる。


 習近平李克強は決して仲が良いわけではなく、お互いがライバルであるし、習近平よりも李克強のほうが遥かにインテリだった。
 李克強は高考(=ガオカオ=中国の大学全国統一試験)で鳳陽県の首席であって、北京大学法学部(=文系の中国最高峰)卒であり、非常に頭のよいタイプだった。


 習近平は、習仲勲(=中国共産党の幹部)の息子、つまりは二世として生まれた。
 小学校卒業後、入学した中学校が文化大革命で解散し、その後学校教育を受けていない。
 しかし推薦入学制度(="模範的な人民"が推薦を受けられるとされる)によって、中学校も出ていないのに名門・清華大学化学工学部に入った。


 さらに、98-02年には清華大学の博士課程に在籍して、法学博士の学位を取得している。
しかし、小学校卒で清華大学化学工学部に無試験で入ったのに、なぜ今度は法学博士を簡単に取れるのかと疑問を持たれており、これにより、今でも中国では「小学校卒の国家主席」と揶揄されることもある。


 学校をろくに出ていない二世の習近平と、インテリの李克強の2人のコンビという政権が運営されたが、首相が行政を司ることから、当然経済面は李克強が支えてきた。
 李克強首相は先代の胡錦濤国家主席の系譜の人であり、習近平主席は李克強が気に入らず、この10年あの手この手で首相の権限を奪った。


 江沢民の時代、胡錦濤の時代、中国は大いに国が発展し、科学力も向上し、習近平時代もそれは続いた。
 例え国家主席が誤っていても、首相がそれを修正し、官僚も正しい道へと誘導して、国が間違った方向にいかないように直していく強みは続いた。
 おかしくなってきたのは、2020年頃。


 2019年頃から中国政府はテック系企業への弾圧を開始し、2020年にはアリババの創業者のジャック・マーが突如引退した。習近平は2021年にはAlipayを運営するアント・グループ(=アリババ系列)の上場に介入し上場停止をさせた。同時期に、テンセントなどテック企業にも多額の罰金が課された。


 中国のテック系の株価はそれら弾圧以来随分と暴落し、CWEB(中国テック2倍ETF)は、2021年の1000ドルの高値から今や20ドルまで暴落している。中国テック系が上海閥(=胡錦濤系)に献金しているからだとか、中国共産党よりも大量の情報を握っていることを嫌っているとか、儲けすぎているからとか、いろんな説があるが、真実はわからない。


 2021年には売上8兆円の中国最大手級の不動産会社恒大集団(=エバーグランデ)問題が勃発した。三菱地所三井不動産をくっつけたような巨大な不動産会社が倒産危機に陥る。中国の不動産価格高騰の波に乗り、2000年代から急成長してきた不動産業者。


 多額の借り入れでエバーグランデは成長していたが、習近平政権は不動産価格上昇を牽制し、「共同富裕」という概念を掲げ、エバーグランデに借金の抑制を命じた。借金を減らすために資産や不動産を叩き売りすることにも繋がり、エバーグランデは債務超過に陥り、中国全土の不動産価格が下落に転じた。


 不動産価格の急な下落が日本の1990年代の深刻な不況につながったと学んでいるはずの中国。
 「え、こんなことするの?」的な経済政策が広がる背景には当然習近平への権限集中があり、それまで首相や官僚が正しく誘導していく牽制が機能していたものが、段々と機能しなくなっていくことの現れでもある。


 自分に一切歯向かわない、異論も言わない、ただ犬のように従う人ばかりが段々と重用され、習近平に忠誠を作る人間ばかりが幹部にも選ばれるようになっていく。


 2022年の北京五輪では、蔡奇北京市党委書記・組織委員長の開会挨拶も印象的だった。


 開会挨拶で開口一番に「尊敬する習近平主席と彭麗媛女士!」と唱えて、見ていた人は「は?」と思ったと思う。この人、五輪開会中にもわざわざ幹部を集めて習近平大絶賛の挨拶をし、他にも大会開催中に幹部集会を開いて、習近平思想を徹底するよう語っていたりと、習近平の犬として有名な人である。


 外国に対して狂犬のように噛みつこうとする人相の悪い報道官や、日本や外国に対して暴言を吐きまくっている大阪の中国総領事などが生まれたのも、習近平の靴を舐めていれば出世し、言われることを進めれば出世し、そうでなければ蹴落とされるからであって、犬ばかりが幹部になっていく。


 今回の共産党大会の「直前」の序列は、

  1位 習近平
  2位 李克強(インテリ)
  3位 栗戦書
  4位 汪洋
  5位 王滬寧
  6位 趙楽際
  7位 韓正

の7名。そのうち、李克強、汪洋、韓正の3名は定年前であるのに退任が確実になり、さらに李克強は完全引退することになった。


 衝撃的だったのは、新しい幹部の一覧。

  1位 習近平(留任)
  2位 李克強
  3位 趙楽際(留任)
  4位 王滬寧(留任)
  5位 蔡奇
  6位 丁薛祥
  7位 李希

 ちゃっかり5位に五輪開会式の習近平礼賛おじさんが入っている。
 衝撃だったのは2位の李強で、上海を2ヶ月ロックダウンし経済と世界の物流を大混乱させたのに、ゼロコロナ政策を忠実に進め評価された。


 新任の4人は全員習近平の子分であり、7人全員が子分になった。
 入るだろうと予測されていた胡春華(=李克強と同じで共青団出身)が落ちたことも衝撃だった。
 胡春華は高考(=全国大学試験入試)で全県文系主席で16歳で北京大学に入った秀才で、最年少なのに北京大の卒業生学生総代に選ばれている。


 胡春華胡錦濤李克強と続くインテリの系譜であったし、国家主席を支える首相(=国務院総理)としても期待されていたのに衝撃だったし、しかも中央政治局委員(=選抜メンバー)にすら入っていなかった。李克強はTop200にも入っていなかった。これで、インテリが政治を支える構造は終えた。


 結果として、中国の数十年を支えてきたテクノクラート(=インテリ科学技術官僚)は政権中枢から排除され、国家主席+優れた首相と官僚による安定した経済成長は見込めないとみなされることになる。科学技術や産業、様々な分野を広く発展させてきた中国が、経済や科学政策を担う人員を軽視する。


 今日、中国のテック株式の指数である香港ハンセン指数は-6%下落した。
 中国のテック企業の2倍ETFであるCWEBは、-35%も下落している。


 これはひとえに、もう習近平政権は経済や科学技術の発展を重視できない政権であり、権力を固めることにしか興味がないと市場から思われていることを表している。


 習近平は小学校卒だ、と言われることがあるというが、IT業界嫌い、インテリの幹部重用嫌いは極めて顕著なものがあって、CWEBが下がっているのはIT業界嫌いであることと、それらの発展のためには政府にもインテリがいる必要があるのに犬ばかりが重用されるという点に尽きる。


 彼がコンプを持っているのか、とかは真実はわからない。
 でも、これからは政府中枢も彼に忖度をしまくることになり、数日前にさっそくGDPの発表が突然延期されたりもしたが、これからは統計情報の虚偽や、政権に対して意見する者の追放が行われても驚かない。


 かつて中国は毛沢東に一極集中した権限を集めた結果、文化大革命大躍進政策が行われ、伝統文化の破壊だけでなく、科学技術の衰退、経済の停滞をもたらし、それを反省して一極集中と超長期政権を防ぐようになった。


 しかし定年制もなくなり、ルールを変えてでも権力にしがみつき神格化を図り、科学や技術に基づかずに政策を進めていった先に何が待っているのか、他の国々は不安に思っている。


 一極独裁になったプーチンウクライナに不毛な戦争を仕掛け、それを政権内の誰も止められなかったように、これまではうまく正しい道に誘導できていた中国官僚機構も崩れていくのかもしれない。


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