続・QJと小山田佳吾問題

 昨晩鶴見済氏からメッセをいただいた。私の一連のツイートで「完全自殺マニュアル」を90年代の鬼畜系の文脈に入れて書いたことへの抗議(というほどのものではなかったが)のメッセだった。同じ指摘をフォロワーからもいただいていたこともあり、釈明しておかないと、と考えていた矢先のメッセだった。


 以下、鶴見氏への返事を載せる。

Twitterの短い文章ではうまく書けなかったと後悔しています。おっしゃるとおりです。私の趣旨は、ああいう一見「反倫理的」なテーマを扱うことが、90年代前半の「悪趣味系」が流行った時代の中で成立した企画で、「完全自殺マニュアル」の作品としての目的は、むしろ反対側にあると書くべきでした。実際、「完全自殺マニュアル」は鬼畜系ではない、という指摘を何人かのフォロワーから頂いております。近く訂正を入れたいと思います。

 鶴見氏への返事は以上だが、今朝方「週刊女性」のコメントとして送った文の一部を載せる。

「Twitterで私はうっかり90年台に流行った「鬼畜系」「悪趣味系」の言葉を出してしまいましたが、QJ自体は必ずしも鬼畜系・悪趣味系の文脈で編集された雑誌ではありませんでした。特にQJは殊更に反道徳・反倫理を強調する鬼畜系の記事は載りませんでしたが、価値判断を正面に出さず、一見「悪趣味」とも思えるテーマや題材を扱うことはあったと思います。その意味では広い意味での「悪趣味系」と捉えられる側面はありました。私の書いた記事にもそのようなものがあります。こういったテーマを殊更に、露悪的に扱うことは、当時はQJのようなマイナー誌ではよくありましたし、ある意味では今も続いていると思います。


 その意図は、あえて一般的な道徳とは反対の立場を取ることで、世間の「良識」や「道徳」の欺瞞性に疑問を投げかけるということがあると思います。目的は世間の良識・道徳の欺瞞を暴くこと(逆説)にあるので、自分自身が本当の鬼畜になってしまうのは本末転倒と言えます。なので、こういう記事を書くときにはライターに高度なバランス感覚が必要になります。


 小山田圭吾インタビューは、もともとは「いじめられた」側のインタビューも載せる計画で、記事を読むと実際にインタビューを試みた経緯も書いてありますが、結果は断られました。まあ、いじめられた側にしてみれば思い出したくもない過去でしょうし、無理やり取材してもセカンド・レイプになってしまいますから、これは相当に時間をかけて、いじめられた側とコンタクトをとり、信頼関係を築いてから取材する慎重さが必要だったと思います。それができた上で小山田インタビューをすれば、全く異なる記事になったでしょう。その意味では、慎重さを欠いた記事になっていたと思います。

以上。


 雑誌に答えたコメントの一部ですが、全文はかなり長くなり、適当に編集して載せて下さいと先方に伝えました。雑誌が出てから、原文の完全版を後日ネットに上げることも考えてます。


 「いじめ紀行」を掲載したクイック・ジャパン初代編集長の赤田祐一氏は、編集長を他に譲って太田出版の書籍部に異動し、高見広春バトル・ロワイヤル」を単行本化してベストセラーにした編集者です。「バトル・ロワイヤル」はもともと角川のホラー小説大賞最終選考に残った作品ですが、審査委員の荒俣宏林真理子高橋克彦氏らが「こんな不愉快な小説は読んだことがない」「こういう内容を平気で書く作者の精神を疑う」とクソミソに貶して落選した小説で、そのあまりの酷評を読んで逆に興味を持った赤田氏が、新聞広告まで出して作者を探して原稿を読み、内容の面白さに出版、翌年に東映深作欣二監督で映画化して小説も映画も大ヒットしました。これも良識を逆撫でする「悪趣味系」の文脈で語ることが可能な作品ですが、作品性も高いものでした。その後、「バトルロワイヤルもの」とでも呼ぶべき小説やゲームのジャンルが出来たくらいです。