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「ロシアのウクライナ侵攻は2022年、中国の台湾併合は2023年!何回言ったら分かるの!」妻の怒号で目が覚める。ドア越しに、息子のうなだれた様子が手に取るように分かる。しかし、ここで口を挟むと「受験のことを何も分かってないくせに!」と被弾するのはこちらだ。黙って枕元のスマホを見つめる。
昨日の都知事の過激発言の動画が再生される。「核武装しないと、日本は強姦されますよ!」傍観者として二度の戦争を見て、日本人は平和な時代が終わったことに気がついた。24年都知事選では、関西発の新興政党が党創設者を候補者に立てて勝利。歯に衣着せぬ発言で、メディアを連日ジャックしていた。
間近に忍び寄る戦争の気配は、我々の生活を大きく変えた。最も影響を受けたのは不動産だ。都心のタワマンは攻撃の目標になるとされて敬遠され、高層階の住民はこぞって千葉や埼玉に移住した。平和だった都市が一夜にして戦火に巻き込まれる光景は、コロナ禍どころではない価値観の転換をもたらした。
一方、中学受験熱は益々高まった。有事を見越した海外大進学がエリサーの間でブームになり、今や御三家は開成・渋幕・広尾となった。夫婦共働きで郊外に住み、数千万円かかる大学の学費を35年ローンで返すのが最新のトレンドだ。佐久長聖や函館市ラサールなど、地方の学校も「疎開」と呼ばれて人気だ。
いつ戦火の火蓋が切り落とされてもおかしくない情勢の中、SAPIXのテストの点数に一喜一憂し、感情を露わにする母親達。呆れるほどアンバランスだが、これもまた我々が生きる21世紀の現実だ。この世界の片隅で、今日も子供達は朝から鉛筆を握り、デイリーサピックスとコアプラスに向かっている。
勉強を邪魔しないように、そっと戸を開けてリビングに入る。「遅いじゃない、非駐なのに良いご身分ね」妻の先制攻撃に防戦一方となる。住友商事に勤める知り合いがロサンゼルス転勤となり、中受や戦争のプレッシャーから解放されたという話を聞いてから、妻から私への圧力は日に日に強くなっている。
もっとも、旦那の駐在が終わって帰任した後もそのまま母子だけ残り、旦那が日本からせっせと仕送りするというケースも増えているらしい。非駐も駐在も、人権はかなり危うくなっている。人権が付与されるボーダーラインが身長170cmかどうか、サイゼリヤや4℃はアリかを巡り議論していた時代が懐かしい。
妻の激詰めで憔悴した息子を学校に送り出し、逃げるように家を出てつくばエクスプレス快速秋葉原行きに乗り込む。気がつけばリモートワークもすっかり廃れてしまい、車内は社畜の熱で充満している。Twitterでは「戦争が始まればリモートワーク復活するのかな」という投稿が不謹慎だと炎上していた。
スケジュールを確認する。人事部課長代理として、新入社員を音楽と共に踊らせTikTokに流すのが今日の仕事だ。明日戦争が始まるとしても、子供達はSAPIXに通い、我々は仕事に向かう。狂っているのは我々なのか、世界なのか。みずほダイレクトのシステムエラーが、いつもと変わらぬ日常を示していた(完
刻一刻と移りゆく情勢や刺激的な情報に過剰反応しがちな今日この頃ですが、現時点で我々に出来る地に足がついた支援として、国連を通じた避難民への寄付があります。精神の変調を感じたらニュースやSNSから離れるのも一つの手です。我々の生活はまた続いていくのだから。
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