今月いっぱいで閉店する、と聞いた地元の衆推薦の某店へ行った。
ご当地市内の一等地の立地。こじんまりとした昔ながらのしもた屋の規模で、外打ちもいい感じだったのだが、中へ入るとそれだけで空気がわかった。澱んでるのだ。見るからにエゾ顔したもしゃもしゃ頭の胡麻塩髪の塩の部分を茶色に染めたようなおばちゃん仲居が出てきて、予約ですか? と尋ねる。名前を伝えると、あ、ちょっとお待ちください、と言ってのれんの奥の帳場に引っ込んだまま。若い仲居さん、おそらく彼女が一番動けそうなのが見るからにわかったのだが、途中で出てきて、ご予約ですか、とまた同じことを。こりゃ外れかな、と思いながらもう一度名前を告げると、すんなり席へ通してくれた。先のおばちゃん、結局最後までひとこともなく。
カウンターの向こうの板さんは地味な落語家みたいなおっちゃんで、しかしこの人も「らっしゃい」と最初言ったものの目線はこちらに向けずただ作業をしているばかり。
ああ、こういうのがご当地エゾ~な空気感なんだわなぁ、と久し振りに思い出した。
悪気はないのだ、おそらくなんも。偉そうに見えるかも知れないが、実はぜんぜんそうじゃない。そういう他人への関心の持ち方をまずしない、そういうココロの習慣を持ち合わせていないまま、たまたま客商売をしている、それだけなのだからして。そういう意味じゃ、そこらの普通の人たちが商売しているのとほぼ地続きなわけで、フレンドリーっちゃフレンドリーではあるのだ、エゾ~的には。
料理が出てくる。おおざっぱ感。量は確かにあるし、そういう盛り付けになっている。ただ、味はというと何と言えばいいのか、わざわざ名のある店で食べさせてもらうようなものとはちょっと言い難い。それこそそこらの立ち食いやファストフード、いやそれは少し気の毒だとしても、割とちゃんとした会社の社内食堂や学食なんかの悪くないところとあまり変わらないような、そんな味つけなのだ。まずい、というわけではない。ないが、でもわざわざ外食に来てこれを喰うのはちょっと、というビミョーな感じ。文句をつけるほどでもないっちゃないんだけれども、でも納得はいかないこのもやもやしたあたりの鬱憤の度合いもまた、ああ、エゾ~だわ、とほんとに思う。
これは違う店のことだけれども、地元でそれなりに評判が良く繁盛もしていたところに連れていってもらい、初めて見たその握りにちと呆れたことがある。何が、ってそのシャリの大きさに、だ。ちょっとしたコンビニのおにぎりくらいあった。何もメガ盛りがどうのとかそういうのを売りにするような店ではないし、そんなつもりも全くないのはよくわかった。わかったからこそ、このシャリの大きい一貫のたたずまいは、外でメシ喰うんだからとりあえず多めに盛っとくのがもてなしだべ、的なご当地感覚、エゾ~なやさしさを体現していたような気がした。これまたまずいわけではない、ネタはご当地のこと、やはり新鮮だしいいのだが、だが、シャリが大きいというのはそれが意図的なもの以前に、そういうもの、というご当地の感覚を何の衒いもなく眼前におっぴろげられたような気がして、軽くいたたまれない感覚にもなったのは確かだった。