日本人出国率の低迷、をめぐって

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 日本人の出国率が低い理由として、記事では日本国内の観光資源の多さも挙げられていた。確かに国内も見所が多く、地方によって文化も違うので国内で充分というのも頷ける。ただ海外に比べて日本人だけが出国率が極端に低いと、国際感覚のある人間が育たず国家としての未来に不安が残る。

 この「国際感覚のある人間」というのがどういう人がたを想定しているのか、これだけでは当然わからんし、ましてそれがそのまま「国家としての未来に不安が残る」とまで一気に吹けあがるあたりも含めてすでに、あれ? という感じだった。「日本人出国率の低迷」という「事実」報道から一点突破&短兵急にこの感想に短絡してしまえるあたりから推測するに、まあ、その、なんだ、いわゆる出羽守な方向へも割とすんなり移行してしまえるような、「国際化」は正義、「グローバル化」は時代の必然、といった考え方をお持ちで、当のご本尊自身それにすでに棹さしての世渡りをされとらすような御仁なんだろう、ということくらいは容易に推測してしまえたりはした。

 次に意外だったのが、実は増えていた訪韓日本人の多くがテレビを見ずネットを情報源にしている若年層という点。毎日のように韓国非難が溢れているネットばかり見ていて何故? と思うが、実際に自分がソウル市内で見てきた状況とも一致している(日本人は減ったように見えず、特に若者が目立つ)

 で、そういう前フリの上、話は韓国に関することに。昨今のこういう状況でなお増えている訪韓観光客としての日本人の多くが若い衆中心というところに合焦して、その「理由」や「背景」について考察&分析(の態をまとった私的な感想、ないしはおキモチベースのチラ裏書き)が始まるという次第。それも、ああ、こんな具合に。

 前にも感じたことだが、やはり生まれた時からネットに接している世代は、ネットの情報を鵜呑みにしないらしい。また若年層は好奇心も旺盛なので、情報がどうあれ実際に行ってみようという行動力もある。で、実際に行けばネットが嘘だらけだという事実に気付いてしまう。


 一方で子供の頃にネットが普及していなかった30代後半以上の世代ほどネットに影響されやすく現実を軽視する傾向がある気がする。ネットがそれまでの常識を覆す革新的なものだったので、盲目的になってしまうのだろう。80年代に玩具の形態を一変させたファミコンにみんな熱中したように。

 ご自分の見聞が報道されている「事実」と合致していることを根拠にするのは出発点としてありだとしても、その「若者」を世代でくくって、その根拠を「ネット」に求めるという図式がまず「おはなし」としての定型。ご自分もまたそれら「若者」世代か、少なくとも彼ら彼女らと地続きのシンパシーを抱くという立ち位置をとっているらしいところから、そういう「ネット」にまつわる経験値の多寡がそれら「世代」性を規定する大きな要因だという決め打ちになっているあたりは、ある時期からメディアの表舞台から世間一般その他大勢レベルでの「そういうもの」理解として流布され通俗化していった「デジタルネイティヴ」的な規定要因を自明に強調したいまどきユースカルチュア論、立ち位置も目線も準拠枠としての「若者」ありきの「世代」論話法にすんなり身を寄せている。

 同時にまた、「実際に行ってみる」ことと「ネット」が自明に対立項的な図式として示されてもいる。もう少し丁寧に言うなら、「自分自身が実際に行ってみて得られた見聞や経験」は「ネットを介して得られた情報」よりも常に信頼性が高い現実解釈の準拠枠になる、ということが疑うことのない「正しさ」として取り扱われている気配が何の留保もなく露わになっている。ということはこれもまたすでに、この御仁自身が穏当に考えて表明していることというよりも、その背後に無意識無自覚な何らかの「おはなし」が駆動してこれらのもの言いを動かしているらしい、という判断になる。

 それと同じく、世相風俗でも、またそれらを数字やデータ化してものを介してでも、「若者」やそう認知できる「世代」性が露わになった(と判断された)場合、そのことを説明するものさしとして「ネット」をあげてくるのもすでにもうひとつのお約束、「おはなし」として公約数的に「わかりやすい」俗耳に入りやすいものになっている。ここでもその定型は、さも自明のものとして採用されているらしい。

 「世代」性が露わになったと思える事象や現象があったとして、それを説明するものさしとして「ネット」以外の変数はあり得ないのか。たとえば、いわゆる韓流スターや文化コンテンツを積極的に受容している層としては「若者」だけでなく、中高年の女性層もまたあげられることは、何もこの御仁に限らずとも概ね誰でも、それこそ半径身の丈の見聞を介した限りでもそれほど無理なく指摘できることだろう。また、観光旅行先としての韓国の魅力はショッピングや焼肉などの食べ歩きなどと共に、エステや美容系のコンテンツが重要な吸引力になっていて、それらは当然「女性」が主なターゲットになっていることもまた、改めて言うまでもないだろう。ならば、「女性」中心の訪韓客というものさしの当て方も同時にあっていいはずだと思うのだが、それらはここでは排除されていて、「若者」という「世代」性だけに話を絞り、それを説明するものさしとしての「ネット」だけを躊躇も留保も気配すらなく半ば自動的に繰り出してきている。論理的、合理的な説明として妥当かどうかという検証以前に、このような半ば自動的に繰り出されるようにしか見えない意味づけ、説明の流れのよどみなさは、そのよどみなさゆえにこそ何らかの「おはなし」が背後にひそんでいることを察知せざるを得ない。

 で、案の定である。次に「そう考えれば」で連想的に引きずり出されるものが、さっそく語るに落ちていた。

 そう考えれば先日記事にあった「ネットで嫌韓を叫ぶ人々が30代後半以上に多い」という説も合点がいく。ロスジェネ世代ゆえに現地へ現実を見に行く経済的、精神的余裕を持つことが難しく、何よりネット情報を信じているので現地を見る必要が無いと思っているのかもしれない。*2

 「嫌韓」感情を露わにするのは若者世代でなくむしろそれより上、30代後半以上(と限定的でなくても)の世代が中心である、という「記事」*3が前提にあらかじめ刷り込まれていて、そしてそれが何らかの感銘なり印象深さなりをこの御仁に与えていたらしい。だから、それをさらに裏づけるような「事実」が発見されたならば、先の「おはなし」群は速攻起動され、いまこのような状況でもなお訪韓観光客としての日本人は増えていてしかもそれは若者世代中心、という「事実」に対する個々の考察や分析の視線は、それ以前にあらかじめもう印象深く刷り込まれていた記事、「嫌韓」感情を支えるのは非若者世代(「おとな」でも「おっさん」でも「中高年」でもいい)、という「事実」を解釈するための二次的な材料として「しか」発動されないことになってしまう。

 つまり、「嫌韓」感情を露わにする日本人が近年どうも増えてきている、それはそれらの現象自体をあの「ネトウヨ」というレッテル貼りで囲い込もうとしていた動きなどとも関連するわけだが、この御仁も少なくともそういう現象に対する違和感や不信感のようなものを抱いていたということなのだろう。それはそれ、もちろん個人の感情であるし、それ自体どうこう言うようなものでもない。ただ、それまでのある種の「常識」、そしておそらくはこの御仁もそのような「常識」を程度の差はともかく共有しているような人だったということなのだろうが、それら「常識」の側からうまく意味づけ説明もできないような事象現象としてそれら「嫌韓」感情を露わにする日本人たちが現前化していて、でもそれらを「ネトウヨ」と決めつけネガティヴな存在としてみても事象現象自体は少しも減衰する気配を見せないから、それらをうまく意味づけ説明できないままという居心地の悪さはご本尊の裡に、そしてこういう御仁に象徴されるような界隈の人がたの間に確かに残り続けているものらしい。

 そんなところへ、そんな「ネトウヨ」的風潮が無視できないくらい現前化している状況でなお、「訪韓観光客としての日本人はむしろ増えている」ということと、それが「若い世代が中心である」という「事実」がある程度の数字と共に目の前にもたらされるとなると、その違和感や不信感と共にもやもやした居心地悪さを感じていただろう「ネトウヨ」現象を別の方向からうまく意味づけ説明してくれるような「合理化」の過程へと意識は自然に向かってゆく。先に言ったようなすでにあらかじめ定型になっているような「おはなし」群の脈絡が起動されるのも、おそらくそのあたりからだ。

 だから、その次に事態はもう一瀉千里にこういう「結論」へと向かう。「若者」でないという存在が「30代後半以上」からさらに「退職した高齢者」とまで何やら不用意に具体的で拡張延長した表現になるのも、「ネトウヨ」は「若者」ではない「中高年」や「高齢者」などが中心になって事象現象化していることなのだ、という、この御仁にとってはおそらく望ましく、かつ最も「腑に落ちる」説明図式が「おはなし」の自然さと共に動き始めていることのあらわれなのだろう。

 そして退職した高齢者になると、暇を持て余し過ぎてネットにハマッておかしくなるパターンも…。30代後半以上と同じでネットに対する耐性が低く、突然溢れた情報に翻弄されると面倒な事になるケースもあるようだ。


 しかし生まれつきネットに接している若年層はそうなりにくい。それが訪韓日本人の増加に繋がっているのではなかろうか。逆に訪日する韓国人も若年層が多いという。共にリピーターは多いから現地で嫌な目に逢っている人が多いはずもない。自分も数十回行って嫌な目に逢ったことは無いし。

 「若者」「若年層」は常に「正しい」。いや、そうまで明確に言わずとも、少なくとも常に「新しい」価値、「次の時代」の標準を先取りして表現している――そういう定型化し陳腐化すらすでにしている「若者」原理主義*4がこれらの前提に根強く、「おはなし」的に稼動していることをご本尊はほとんど意識していないのではないだろうか。それらは「ネット」というものさしによってその「正しさ」を保証されているし、まただからこそ、訪韓する日本人側だけでなく訪日観光客としての韓国人にもそれら「若者」が多い、ということを引き合いに出しての正当化にまでつながってゆく。ああ、美しき「若者」世代の国境を越えた連帯!まるであのSEALDsのようだ!!これら「おはなし」群が互いに駆動してゆく「正しさ」の前には、観光客としての「リピーターが多い」ことと「現地で嫌な目に逢っている人が多いはずもない」ことの間が自明に繋がるものかどうかの留保もここでは当然すっ飛ばされ、さらにダメ押しに当のご自身の「経験」「見聞」があの「当事者の正義」というさらなる「おはなし」をあてこんだ形で繰り出される、という結構。

 外交問題には思うところもあるけど、両国政府とも自分達の経済失策から国民の目を逸らす為に煽っている部分があるので、乗せられるべきではないとも思う。政府が国民を外敵へと焚きつける様は世界中で散見されるし、不況が来ると繰り返される歴史的必然でもある。その先に待つのは言わずもがな。

 「言わずもがな」の後が尻切れ蜻蛉なのも、そのあとは言わなくても「当然」わかるだろう、「常識」を共有するくらいの読み手ならば、ということなのか。「政府」や「国家」に対しても自明に懐疑的、否定的で、それらは「国民」(≒ご自分も含めた、ということのようでもあるがこのへんやや不詳or不審で要審議) を「騙す」不誠実なことを平然とやるものだ、という認識が、おそらく先に触れたようなある種の「常識」としてこれまた自明にあるものらしく、このへんは進次郎的なロスジェネ氷河期「勝ち組」ネオリベグロバ緊縮脳の煽りにこの先、かなりの程度すんなり追随してゆくだろういまどき20代から30代そこそこあたりの、新世代量産型ネオリベグロバ脳実装機体の典型という印象も。

 とは言え、かわいらしいのはそれで収めてしまうことができずに、さらに「蛇足だけど」と言いつつ、さらにご自身の「体験」「見聞」をアリバイ的に、国境を越えた先ではこんなボクだってイヤなことくらいフツーにあっているんですよ、それくらいの「多様」な現実を知ってもいるんですよ、という自分語りなアピールをせずにはおれないというあたり。

 蛇足だけど海外での嫌な体験と言えば、スペインのホテルでぼったくられた事と、台湾のタクシーで日本の友人が乗車拒否された事、そしてフランスでラリった兄ちゃんに追いかけられた事。スペインも台湾もフランスも自分の中では5本の指に入るくらい好きな国なのに、アクシデントには遭ってるw

 どこのどういう御仁なのかよくわからんし、プロフィール等からも何かそういう「国際的」で「グローバル」な仕事をされとらす絵師さんかな、程度のことしか推測でけんけれども。*5

*1:出国率の低迷という「事実」報道から、それを介してあれこれ考察&分析してみせる、その道筋や手癖の中にすでにある「おはなし」的定型が(おそらくご本尊はそれほど意識していないうちに)きれいに忍び込んでいるらしい、そのひとつのわかりやすい事例症例として。

*2:なにげに「ロスジェネ」disをかましている。ということはその程度にそれよりも若い世代に属するということなのだろうか。まあ、この「ロスジェネ」disの心性や構造その他についてはこの場では突っ込まないでおくけれども。

*3:どこに掲載されていた誰の、どういう記事か、は明らかにされていないが、それでもまあ、およその見当はつく。

*4:これ自体、直近では「戦後」の言語空間や情報環境の複合の裡から結晶してきたものであり、さらに射程を広げればもちろん本邦「近代」このかたの、そしてそれ以上に「民俗」レベルも含めた茫漠としたわれら日本人のココロの「伝統」的なありようにも関わってくるようなお題でもあるだろう。

*5: 「商業や同人で日本各地とアジア、ヨーロッパ、アメリカ等のイベントに参加したり招待されたり。スペインやアメリカのコンベンションの公式イラストを担当。」