売上一兆円を超す大企業三社から言質取れたのでほぼ間違いないと思われる。
— shinshinohara (@ShinShinohara) September 19, 2019
どうやら、「うちみたいな大企業なら、100億は売り上げないと新規事業として成り立たない」という、意味不明の言説が日本の大企業の開発陣を呪縛してるらしい。不思議と、三社そろって100億円。なんで100億円やねん。
本邦いまどき企業風土の問題の一角として。いわゆる「団塊の世代」言説に象徴されるような「いまどきのジジイたち」問題の神話性wとは別に、現実的には高度成長期ネイティヴがすでに幹部経営層の中核になり始めていること、それが前から触れている「50代アラカン世代の煮崩れ転向無責任問題」にも関連してくるらしいこと、その他含めて。
経済学や経営学など、それら企業と経済活動にまつわる分野を「研究」する領域はいくらもあるだろうが、それら既存の学術研究の間尺と視点とは少し別なところで、それこそ民俗学的な(と敢えて言うことも実はないんだが)視点からの問いもまた、こういう時代こういう状況だからこそ、なにげに効きがあるはずだからして。
誰からともなく言い始めた「大企業なら新規事業でも100億」説は、ここ10年ほど、日本の開発力を無駄に削いだ可能性がある。遅きに失してるとはいうものの、100億説、やめてまえ!今からでも、タネを地道に育て始めろ!ちっちゃいことバカにしたら大きなもの育てられへんわ!
誰だ!「大企業なら新規事業は100億見込めなければならない」なんて言説を広げた奴は!分野が全く異なる大企業三社がそろって「100億」と言ってるところをみると、著名なビジネスコンサルタントか経済学者が広めた可能性がある。どこのどいつだ!
立場も経歴も、依って立つ地盤や背景なども違っているのに、そこで出てくるもの言いがどこか揃っている、似通っている、それだけで何ものかの表現になっている。この感覚はかなり大切なものだ。うっかりとその「説明」や「意味」を性急に求めようとしない限りは。そこにさえ立ち止まって留意できているならば、そのような感覚は身の丈の現実に即した対応の処方箋へと着実に向かう可能性を宿してくれる。
新規事業を立ち上げたばかりで、100億売り上げられるかなんて、事前に分かるはずがない。なのに「本当に100億稼げるのか、もしダメだったらどう責任をとるつもりだ」と問いつめて、新規事業をポシャらせる大企業が続出。この意味不明な「100億」説のために、有望な事業が次々潰されてる可能性。
あれだけイノベーションを立て続けに出していた日本企業が、小泉政権あたりから、新規事業がまるで立ち上がらなくなった。小泉元首相の「強いリーダーシップ」幻想にとりつかれ、現場に耳を貸さないリーダーが日本中ではびこったあたりからおかしくなった。
今でこそ飛行機まで作るようになった炭素繊維なども、使い道と言えば釣り竿くらい、という、産業規模としては必ずしも大きくない時代を長く続けてきた。それをコツコツ育ててきたから、今、世界で注目される技術に育った。炭素繊維が生まれたての時に「100億」説を持ち出したら潰れてただろう。
日本企業は、少なくとも90年代までは、どう育つか、どこまで育つか分からない技術のタネをたくさん抱えていた。しかしもし、大企業がこぞって「100億の見込みのない事業は見直し」なんてことを言ったら、新規事業で育つものなんて何もなくなってしまうだろう。まさにその状態なのではないか。
ことばが自分たちの手もと足もとの現実から、そこに紐付いたものとして、別の角度から言えばそこで生きている自分たちが確信と共に制御し得る道具として、いずれゆっくりと迂遠な手間と時間をかけて紡ぎ出されてきたものではなく、それら現実を手早く「わかる」「意味づける」「説明する」ための「役に立つ」ツールとして既成品を探して拾ってくるものになっているようないまどきの多くの現場においては、ことばは常に目新しく、耳障りもよく、切れ味すら鋭く見えるものにだけなっている。だからその分、そのようなことばやもの言いは誰もが使いたがるようになるし、また使いたがっても別に不思議はないくらいには「誰にとっても役に立つ」道具として見えているものらしい。そう、まるで規格の揃った「便利な」工業生産物のように。
そして、そんな工業生産物のようなことばやもの言いを要領良く探してきて、うまく使い回すことが「賢い」ことであり、それが生きてゆく上で最も「効率的」で「合理的」な「スキル」であることを、育ってゆく中で知らず刷り込まれていた人たちというのが、すでに本邦の中堅から中核を占めるようになっているらしい。そういう時代、そういう年回りに本邦は現在すでにさしかかっているという眼前の事実と、そのことの意味について考える足場すらうまく設定できないままらしいことについても、また。
もう一つの可能性は、「バブル世代」が自然に広めた可能性。今や大企業も、開発方針を決める重要なポストにいる人間は、バブルの頃に就職した世代。この世代は、日本が圧倒的な力を誇っていた時代に働き始め、規模の大きなことが当たり前と思ってる。
「うちみたいな大企業ともなると、10億程度のチマチマした事業をやってたら効率が悪い」という考えを持っても不思議ではない。実際、クロ現の取材中にもそうした発言をする大企業幹部が出演してたりしてるくらい。バブル世代は金銭感覚が少しおかしい。10億がちっちゃく見えるかもしれない。
開発方針を決定する立場に、バブル世代が就任してるタイミング。これが日本の大企業のどこにでも起きて、自然と「100億」説が広がった可能性がある。「俺たち大企業ともなれば、みみっちいビジネスはできないよね」という、バブルな感覚で新規事業をしたら、育つものも育たない。
新規事業はゼロから育てるんじゃ!世界一足の速いボルトだって、赤ちゃんの時はハイハイから始めとる!生まれてすぐに走ってる赤ちゃん、見たことあるのか!恐いわ!新規事業で100億求めるのはそういうことや!
*1:「育てる」ことができなくなっているかも知れない本邦の現場。時間と手間をかけて「変わって行く」ことを信じるだけの留保や立ち止まり、「おりる」感覚が現場からなくなっていった過程についても。