BLコンテンツの読まれ方解説・メモ

そういえば昔(だいたい10何年か前)、商業でBL文庫レーベルの立ち上げのお手伝いをしてたことがあって(割と何でもやってる)、その時に「競合他社の傾向とボーダーの今はどうなってんですかね?」と当時の担当さんと一緒に首都圏の大型書店巡りしたことがあったんすよね。


そしたら、表紙を捲ったとこにある巻頭カラーページがM字開脚でしてね。
これ一冊だけかなと思ったら、もうだいたいピンクの乳首とM字開脚でしてね。
メス顔した屈強なお兄さんとか、メス顔した細マッチョのお兄さんとかが、上気した顔でM字開脚でしてね。


「いやー、これ男性向けだったら一発アウト、条例に引っ掛かって呼び出されて編集長が送検されるレベルじゃないすか!」とゆうたら、「男女の異性愛について、男性が読者(消費者)の場合、読者がそれを模倣すると女性が被害者、読者が加害者になる可能性があるけど、男男の同性愛の場合、女性読者は天地がひっくり返っても【攻めの男も受けの男も模倣できない】から、読者が加害者になる可能性がないんですよ。だから安全」って言われて、「なあるほど!」ってなって合点した。


当時既に「けいおん!」とかあそこらへんの、「恋愛が登場しないゆるい百合(登場人物に男性がおらず、異性愛が成立する余地が元々ない)」があって、最近だと「ゆるキャン△」とか。この「登場人物の間に友愛はあるけど恋愛(異性愛も同性愛も)が存在しない、ゆるい百合(登場人物は全部女子)」っていうの、「BL(男×男)は女子読者が消費しても、読者が犯罪者になり得ない」と対になってる話なんだなー、て。


実はコンテンツとしてのロリも実質そうなんだけど、


「男×男のBL」


「女×女の百合」


とかは、読者は「外から眺めるのみ。お触り厳禁。その世界に読者が身を置いてはいけない」というお約束を破ると元の世界観が成立しなくなるコンテンツなので。


「創作作品を読者が手本として模倣し、読者が犯罪者になる(ことでコンテンツ発行元もバッシングされる)」ことを最大限まで低減できるのがBL(男×男を女が消費)と百合(女×女を男が消費)だというの、出版戦略論としてなかなかに興味深かった。


でもその頃はまだ、


「作中の登場人物の関係性に読者が関われない。故に作品を読者が手本として模倣して、読者が犯人になることは起こり得ない」


という感じで収まってて、


「善意の第三者(実在)が作中の非実在登場人物の嫌悪感、忌避感、羞耻心を代弁する」


みたいなアクロバットは出てきてなかった


「男性成人読者向けのエロは、【男×女の異性愛を男視点で描き男の読者が消費する】コンテンツ」で、
「BLは、【男×男の同性愛を男視点で描き女の読者が消費する】コンテンツ」


という感じで、実は逆位相ではないんだよね。


でも、「リアル男性ゲイが消費する、ゲイ向けの男×男の同性愛コンテンツ」と、「女性が消費する、女性向けの男×男の同性愛コンテンツ」とは、似ているようで別モノで、どちらかがどちらかを借用したり共用したりする用途のものではないんですよ、ってな話も、そのレーベル立ちあげのときに聞いた。


ここらへんは、「リアルゲイだけどBLを消費する」とか「リアルゲイ向けのフィクションは消費するが、腐女子向けのBLは受け付けない」とか、時代差や個人差、流行の差、あと【供給量の差】とかもあるから、僕もちょっと「今」がどうなのかは論じられるほどに詳しくない。


が、「女性読者(腐女子)の消費を念頭に作られた、女性向けのBL(男×男の同性愛)コンテンツ」というのは、女性読者は総じて受けのほうに感情移入する傾向が強いとかで、メス顔で描写される受けキャラに、読者が自分自身を投影するから、とかなんとか。


つまり、BLは同性愛の体を取ってはいるけど、実は「男×男の皮を隠れ蓑として被った、男×女の異性愛モノである」というのが実体なのではないか、という。だってほら、やおい穴とかありますしね!<◎><◎>


いや……今のBLって、受け側にやおい穴あんのかな。いや、うーん。


受けが受動的、されるがまま、躊躇ったり抵抗したりするけど、されるがままにされてしまう、という感じに描写されるのを見て、受けに読者が自分を投影するのでは、みたいな話。よく「リバは受け付けません(キリッ」っていう腐女子の人がいたりするのは、これが理由なのでは、と!(Ω ナンダッテー


んでまあ、当時と今の差違、社会の空気の差違には何があるかというと、「LGBTQの方々のお気持ちを考えろ!」みたいな代弁者の増加と、「私はLGBTQ(のどれか)ですが、そうでない人々に自分達の性が消費されるのは耐えられない!」という発言する当事者の増加、とか。


「男×男のBL」を、別に同性愛者ではない女性読者(腐女子)が消費できていたのは、「男×男のBLは非実在の架空存在だから」ということ以上に、「男×男の実在のゲイは蹂躙しても文句を言ってこない少数弱者だから」という侮りがあったんじゃないか?と、先の話と合わせて思うところはあって。


腐女子が好きなのは非実在のBLであって、実在のゲイではない」


みたいなの、コミックだったかドラマだったかにもなってなかったっけ。タイトルはうろ覚えなので不正確。
BLに登場する非実在登場人物は、美少年、美男子、美青年、美中年、美壮年、美老人であって、胸毛の濃い熊ではないからなあ。


まあ、あそこも闇が深い分野なので、「胸毛の濃い筋肉質」「固太りの体毛の濃い肥満」とかが主人公のジャンルがあり、その愛好者ももちろんいるんですがね。


でも、「異性愛者としての自分を維持しながら、非実在登場人物の受け側に自分を投影する読み方をする女性読者(腐女子)」の多数が求めてるのはそこまでエッジの効いたジャンルではないので(ry


とまあ、これも全体を論じてる話ではなくて、僕の知る一分野、一時期の話。
が、「読者を犯罪者にしないコンテンツ作り」という出版側のアプローチの話は、なかなかに興味深かった。


この「読者を犯罪者にしないコンテンツの供給」が言われてたのは、前段としてやはり「男性読者が消費する異性愛コンテンツについて、コンテンツを手本とした犯罪が行われた」或いは「コンテンツが犯罪の手本になったのでは?と疑われた」という背景はあったんじゃないか、とは。


ロリコンが幼女を殺す」
「鬼畜ゲーを手本に少女を監禁」
「女教師が男子生徒に手を出す」


とかの犯罪があっても、それでも「成人向けエロコンテンツ」の需要はなくなりはしないので、検挙されたり社会的制裁を受けたりせずに、供給を持続させるにはどうしたらいいか?という工夫をですね、


商業誌版元は版元で、時代時代で首を捻って頑張ってるんだということは、ちょっとは知ってて下さいヽ(´∇`)ノ


それはそれとして、本誌の内容はさておき読者に常に自重と自粛と、「我々は社会にどう見られているか」の訓戒を欠かさない、「L.O.」は表紙とそのキャッチコピーが素晴らしいと思う。