実家にて(令和5年 正月)

 久々に実家に帰ると、YouTubeばかりみて謎の陰謀論に染まった高齢父がディープステートやロスチャイルドという単語を発し、自然派に染まった高齢母が怪しい高齢有機栽培健康食品を差し出し反ワクを唱える。


 部屋隅には埃を被った夢グループのダンボールが落ちていて、中には謎の電気器具が入っている。


 久々に見た地上波放送は老人向けの意見しか言わないコメンテーターで溢れ、若い世代がコロナを広げる原因だと喧伝し、番組の間に流れるCMはセサミンだとか尿漏れパッドだとかいうものばかり。番組だと思って見ていたものはテレビショッピングのCMだったと気づき、たまに流れる通信3社のCMに安心する。


 「最近の若い人はテレビをみないってほんとう?」「新聞をよまないってよくないわよ。私が若い頃は天声人語を書き写したものよ」とさっと朝日新聞を差し出される。その割に、FRBという単語も知らなければ未だに中央省庁の官僚が良い暮らしをしていると心から信じていて、会話が成り立つことはない。


Netflixも面白いよ」と言ってもNetflixが何なのか理解しようとすることはなく、YouTubeNetflixの違いもわかることはない。
GoogleアカウントもApple IDのパスワードもノートに書き留めさせているが、忘れるたびパスワード変更ばかりしていてどれが最新のものなのかは誰にもわからない。


 7−8年前に買ってあげたSSDではないHDDのパソコンを長い時間かけて起動すると、ocn.ne.jpで終わるメアドの受信箱は通販サイトのメルマガで埋め尽くされ、どう考えてもiPhoneより使いづらいAndroidらくらくスマホにはAmazonや佐川急便を名乗る偽メールがたくさん届いている。


 携帯料金をみせてもらうと、謎の安心保証パックや映像見放題パックに加入させられ、月の費用が10000円/人。端末には謎のSDカードが入っていて、キャリアショップで10000円で買ったというが、データは何も入っていない。使用データ量は0.3GB/月で、正月早々格安SIMに切り替える作業を行おうとしたが、キャリアメールを長年使っていてそれがないと困るというので、最近開始された解約後もキャリアメールを使うサービスにも加入し、なんとかことなきを得る。


 昔の同級生の誰々が子供を産んだとか、どこどこの誰々と結婚したとか、家を建てたとか、そんな話を延々と聞かされながら暗に圧力を受けつつ、今年もいつもと同じ神社へ皆で初詣にいくと、どこから現れるのか誰なのか知らないけど正月にはいつもいるおっさんや爺さんが神社で福引やお札を売っていて、毎年同じ風景があって安心する。初売りにでも行こうかというと、年老いた両親は車の運転が不安なのか行きたがらず、代わりに自分が運転して、


 やはり自分の両親もだんだんと衰えがきていることを痛感するも、この毎年の風景がいつかなくなってしまうなどとはとても考えられずに、今年もまた同じような正月を迎える。


 かつては子供で賑わった自分の実家の住宅街も高齢化が進み、子供をみかけることはなく、静かな空気が、今年も流れている。