町工場の熟練、その末路

 老舗の鉄工所が今月で畳むとのことで「まだ働けるけど利益もそんなでないしやっててもなぁ」と。


 公差指定しなくても「ポンポンって叩いたらスースーって入るぐらい」とか「ハンマーで強めにカンカン叩いたら入るぐらい」とかで作ってくれる70代の超ベテラン旋盤工だった。思わず口から「それだけ技術あれば他の会社で全然働けるでしょう」って質問したんだけど、「他のところでやっても厳しく管理されたら疲れるし。100分台以下はもういいかなぁ」って。年金じゃ食べていけないから旗振りのバイトでもしながら食べてくって言ってたのが衝撃的だった。


 汎用旋盤(手作業)で量産品を扱ってるから、NC(コンピューター)でやってるところより単価上げれない。単価あがればやってけるけど、人手もないし時間もない。50年以上やってるプロの作業速度でそうなるんじゃ、そこはもう技術の限界点だと。


 リバースエンジニアリング、レストア等で最近で思ったのは、この手の即応できる熟練技術者ってめちゃくちゃ需要あるんだよね。認知されてないのが一番の原因で、やって欲しい人は山ほどいるの。そういった特殊小口注文、誰もやってくれない(やれない)から時間も予算も気にしなくていい。ニーズに答えるだけでいい。即納を求められるなら価格を上げれる。誰にも作って貰えないなら価格をあげられる。大手がやらない(やりたくない)この隙間ってみんな喜んで金払ってくれるんだよ。


 でも、何が問題かってこの手の熟練工たちは中学卒業してからずっと工場で技術を磨いてきたことによって、あまり情報化社会に適合してない。そして客はインターネットしか見ない。


 客はごまんといるのに...
 町歩けば作ってくれる町工場は山ほどあるのに...
 聞けば考えてくれる設計屋いるのに...


 この手の熟練者、後継者もいないからここら辺の代で技術が失われる。


 最近はなんでもコンピュータ(先進技術)に頼ってるから、今の人はもう作れなくなる。精度は出るだろうけど、小口注文ならその機械の償却分が価格にのるし、回収したい業者はそれをぶん回すしかない。


 量産制には到底真似できない領域が手作業にはあるんだよ。ましてそれによってしか出せない利益ってのもある。技術を持った熟練工がほかの職に就いて安い賃金で働くってのが資本主義の成れの果てって感じで非常にもどかしい1日だった。