ミュシャ、をめぐる騒動関連・メモ

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 夜なのでちょっと。ミュシャの話。まああそこまで苛烈な見方する人は稀だと思うけど、ある種のアートクラスタの間では、ミュシャってうっすらとではあるけど、あんまり好かれてない気はするな。逆に、イラスト系の絵描きはびっくりするくらいミュシャ好きなんだよな。


 これは今の店始めてから気がついた話なんだけど、イラスト系の絵描きって、ほんとみんなミュシャ好きなんですよ。好きな画家は? って聞いたら、真っ先に出てくる。不思議なくらい多い。まあ自分も嫌いではないが、そこまで? って思うくらいミュシャ好きが多い。


 なんでだろ、とずっと考えて謎だったんだが、会田誠さんのツイート見てなるほど、と思った。要するに、描き方が日本画、マンガに近いんだよな。輪郭線がはっきりしてて、塗り絵に近い。日本人のナチュラルな描き方に近いんだよ。なので「あれは萌え絵だ」ってのも、あながち外れてない。


 自分が子どもの頃受けた美術教育は「とにかく輪郭線を描くな、面で描け」ってやつで、まあ西洋式の見方、描き方を叩き込むみたいなやつだったんだが、これ、いまはどうなってるのかな。まあとにかく、旧式のアカデミックな絵の描き方ってそんな感じ。ミュシャの真逆。


 ミュシャって浮世絵の影響受けてるから、言語に例えると「カタカナ英語っぽい発音で話してくれる人」、とでも言えばいいかな。日本っぽい。なので、日本発のサブカルチャー、イラストから入った絵描きはストンとハマるんだよな。あとはそれを是とするか非とするか。ここは判断わかれるよな。


 ともかく、「ミュシャしか知らない」ってのじゃやっぱりいろいろマズイので、それ以外の絵描きも知っといた方がいいよ、ってのは言ってもいいかな、と思う。美術館行こう。図書館行こう。

 版画はどうなんだ、というご意見をいただいたので。
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 下はカロの版画なんですが、線は使ってるけど輪郭線はほぼないでしょう。光と影で、面単位で立体を捉えている。これを日本の版画である浮世絵と比べて見られるといいと思います。浮世絵は輪郭線です。同じように印刷を媒介にしてても、このくらいモノの見方、描き方に違いがあるんですよ。

 石膏デッサンやるときに、カクカクした面取りの石膏像出てくるじゃないですか。あれはこういう「面で描く」力を鍛えるためのもので、私も詳しく知らないですが、西洋人は何百年も前からあれ使ってるらしいですね。日本にはそういう伝統はなかった。


 なので、旧式のアカデミックな美術観を持つ人が、ミュシャに対して、あるいはミュシャ的な絵を描く人に対して何となく違和感を持つのって不思議じゃないんですよ。カタカナで英作文して出してきた、みたいな違和感なんでしょうね、きっと。


 ちなみに、私が神野歌音という作家が面白いなと思った理由はまさにこのあたりで。漫画由来の顔、身体バランスなのに、描画法は面の陰影で描いてる。ハイブリッドというか、裏をかいてきたな、と思いました。
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 ご好評いただいております神野歌音個展「月光」、20時までの営業はいよいよ本日まで。明日18時で閉幕です。画像は同展より、《舞台上》。ご注文は下記からどうぞ。
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 まあ、元の発端がそもそもアレ、ですから、触らない方がいいような話ではあったんでしょうが、ただ、そこからでも生産的というか、ちゃんと「教養」的に肥やしになるお題はいくらでも引き出せる、という意味ではよかったのかな、と。

 「哲学」でも「社会学」でも何でも、自分がよく知らない分野、背景その他よくわかっていないはずの領域、てか、それ以前にそもそも自分自身好きでもなく興味もそれほどないような方面について、なんでああまでホイホイ簡単に何かもの申すw(死語か、これも)ことができるのか、そのへんの万能感がほんっとに謎である。